2018 Fiscal Year Research-status Report
非欧米諸国の女性キリスト者による環境倫理への貢献―ラテンアメリカを中心に―
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16K16712
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
藤原 佐和子 東北学院大学, 文学部, 講師 (20735295)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 思想史 / キリスト教 / 環境倫理 / ジェンダー / エキュメニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
非西洋の女性キリスト者たちと環境倫理とのかかわりは、ローズマリー・ラドフォード・リューサー編Women Healing Earth: Third World Women on Ecology, Feminism, and Religion(1996年)として初めて書籍化されたが、この運動で非西洋を代表するイヴォネ・ゲバラが神学の出発点を貧しい女性たちの「具体的現実」の内に見定めている点に留意するとき、学術論文だけでなく、アジアの女性キリスト者たちの日常にかかわる読み物を掲載してきたAsian Women’s Resource Centre for Culture and Theology(AWRC)の専門誌In God’s Image(以下IGI)を一次資料とすることの重要性が見えてくる。 1991年から2006年までの資料を調査対象とした2018年度の研究では、第一に、エコフェミニスト的論攷が登場し始める1990年代に際限のない開発事業が批判された点、エコフェミニスト的視座が詩や散文、環境意識の高いキリスト教教育などの具体的実践に反映された点を確認した。第二に、エコフェミニズムが初めて特集された2000年には、アジアの諸文化に見出されるエコフェミニスト的要素の再評価や、自然破壊に対する女性たちの抵抗運動が行われ、「リタジー」が初めて創作された点について整理した。第三、自然災害の頻発を背景に「神の庭をケアする」が主題された2006年には、被災地の状況がアルピジェラを用いて表現された点や、自然災害にかかわる聖書の物語の「安易な神学化」が批判され、犠牲者の死を悼むリタジーが創作された点を確認した。以上のことから、非西洋における「神の被造世界へのケア」にかかわる宗教的感受性と動機付けは、もっぱら西洋の神学研究の輸入によって養われるのではないと理解することができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
AWRC事務局の移転等の事情により、日本国内の大学図書館およびアジア・キリスト教協議会(CCA)のアーカイブにおいてIGIのバックナンバーを網羅的に収集することが困難であったため、2018年度の研究活動では、同誌に初めてエコロジカルな諸課題への言及が見られる1991年から2018年までの約30年間ではなく、2006年までの約15年間を調査対象とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は特に、1991年から2006年までのIGIを一次資料とした調査を通して、アジアの女性キリスト者たちと環境倫理のかかわりにおける重要なキーワードであることを確認した「自然災害」、そして、2015年のアジア・キリスト教協議会(CCA)第14回総会に際して刊行された論文集Living Together in the Household of God: Asian Reflectionsにおいて、「気候変動と環境正義(eco-justice)」に対する教会の応答の必要性が論じられた点に注目する(地域的事例)。具体的には、環境倫理学の基礎文献や、キリスト教におけるエコ神学の基本文献の一つとされるChristianity and Ecology(2000年)をもとにエキュメニカル運動における「環境正義」の概念を整理した上で、IGIの31巻1号(2012年6月号)“Caretakers of the Earth”を最重要資料として、アジアの女性キリスト者たちが「環境正義」をどのように理解し、自然災害に対応してきたか(disaster response)を論及する。
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Causes of Carryover |
所属機関における業務増加による時間的制約や、渡航先がアジア地域内となる地域的事例研究の重視による。
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