2016 Fiscal Year Research-status Report
日本の洋楽受容史におけるアメリカの影響―ヴォーリズ建築にみるピアノの普及―
Project/Area Number |
16K16717
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
齊藤 紀子 お茶の水女子大学, グローバルリーダーシップ研究所, 特別研究員 (60769735)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ピアノ / ヴォーリズ / 近代日本 / アメリカ / 建築 / 音楽学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究調査を構想する端緒となった博士学位論文の執筆過程で調査した住宅改良会(1916-1943、会主:住宅建築会社あめりか屋社長橋口信助)とその機関誌『住宅』から、ヴォーリズが主に活動した20世紀前半の日本では、洋式をとり入れた住宅を啓蒙・普及する過程にあり、ピアノは和室が主流の日本に、洋式をとり入れた住宅の洋室に備える家具の一種として紹介されていたことが明らかになっていた。それに対し、ヴォーリズのYMCA社交室における住宅設計に関する講演記録(ウヰリアム・メレル・ヴオーリズ,(著);内田,青蔵(編);山形,政昭(解説)『ヴォーリズ「吾家の設計」「吾家の設備」』柏書房、2010[初版はそれぞれ1923・1924])を分析したところ、ヴォーリズの住宅設計観には、ヴォーリズにとってピアノは楽器の一種であり、日常生活に音楽を囲むひと時をもたらすために欠かせないものであることが表されていることがわかった。そして、自叙伝(一柳米来留『失敗者の自叙伝』近江兄弟社、2014[第三版、初版1970])を読み進めたところ、ヴォーリズがこのような住宅設計観を抱くようになった背景には、ヴォーリズ自身の生い立ち(敬虔なクリスチャンの家庭に育ち、幼少時より教会や学校でオルガンやピアノを弾く機会が多く、来日後も近江兄弟社の行事など折にふれてオルガンやピアノを弾くほどこれらの鍵盤楽器が身近にあった)が深く関わっていることが明らかとなったので、日本音楽学会の第67回大会で研究発表を行った。 この成果は、平成30年度の全体の総括に際し、ヴォーリズ建築を事例に、日本のピアノ受容史におけるアメリカ文化の影響を再考するという本研究の目的を達成することに備えるものであったが、音楽学研究として取り組んでいる本研究調査と日本の建築文化史研究との連関性を見出すことともなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヴォーリズが関西に設計した各建築物にみるピアノの実地調査、文献資料調査、関係者への聴取調査ともに、概ね当初の計画通りに進められている。これはひとえに、大阪芸術大学のヴォーリズ建築研究者山形政昭教授とヴォーリズ建築設計所の流れを汲む一粒社ヴォーリズ建築事務所の芹野与幸氏に面会し、非公開のヴォーリズ建築の所有者への聴取調査が実現できたためである。また、近年、ヴォーリズ(建築)への関心が高まり、平成28年度に国際基督教大学や東洋英和女学院、明治学院、世田谷美術館でシンポジウムや展示が開催され、そうした企画に参加できたことも本研究遂行の大きな支えとなっている。日本音楽学会の第67回大会で研究発表の機会を得た際に言及したヴォーリズの住宅観に関する二冊の著書『吾家の設計』ならびに『吾家の設備』も、平成29年度4月に復刊される予定である。 なお、当初予定していた「ヴォーリズ建築にみるピアノ」のデータベースの作成については、未だ着手していない。これは、文献資料調査を進めたところ、『住宅』をはじめとする同時代の日本の住宅雑誌とは異なり、調査対象となるヴォーリズ建築の設計図には基本的にピアノの有無が記載されていなかったためである。とはいえ、学校史やヴォーリズ住宅の施主の記録(日記・写真)などの史料からヴォーリズ建築の施主にピアノを含む音楽の嗜みがあったこともわかってきている。現時点では、データベースを作成することよりも、多様な資料をもとにヴォーリズ建築の関係者・施主の具体的な音楽実践について調査を掘り下げることを優先させる方が、本研究の目的の達成に適うと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
文献資料調査については、平成28年度の実地調査を通じて多くの一次史料を関係者からご提供いただいている。これにより、公開されている情報からはみえてこないヴォーリズ建築における日々の音楽活動について具体的に明らかにすることが可能となったので、これらの史料の内容の読解・分析をすすめることを第一に考えている。 平成29年度は、実地調査として、ヴォーリズの出身大学コロラド・カレッジ(コロラド州コロラド・スプリングス)や、数年前に他界したライオン教授が所属し、郷土史研究の一環でヴォーリズを調査されたことからヴォーリズ家に関する地元紙が整理・保存されている北アリゾナ大学(アリゾナ州フラッグスタッフ)での文献資料調査を予定している。平成28年に行ったヴォーリズが興した近江兄弟社の所在地滋賀県近江八幡市に於ける実地調査を通じて、各大学のヴォーリズ・コレクションに詳しい関係者をご紹介いただいた。これにより、渡航前に、どのような場所にどのような資料がどのくらいあるか、かなり具体的に把握することができている。各地の公共図書館も活用し、時間を有効に使いながら非公開資料も含めた文献資料調査を進める予定である。 加えて、平成28年度夏にアメリカンセンターで研修を受け、アメリカ国内の各種出版物を日本国内で閲覧できるようになった。ヴォーリズの調査を中核に据えることに変わりはないが、アメリカの建築文化史やピアノ製造の歴史について、日本国内では入手できない文献の内容も視野に入れて考察をする予定である。
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Research Products
(1 results)