2016 Fiscal Year Research-status Report
20世紀後半以降のアメリカ音楽理論・分析の射程と方法の変遷―学術文化の事例研究
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16K16718
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
西田 紘子 九州大学, 芸術工学研究院, 助教 (30545108)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アメリカ音楽理論 / シェンカー理論 / ネオ・リーマン理論 / 理論と分析 / 理論と演奏 / 方法論 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、20世紀後半以降のアメリカ音楽理論という分野に関して、主に分野内部の傾向に照準し、とくに(1)近年における全体的な傾向を俯瞰すること、(2)音楽理論の方法同士がいかなる関係にあるかについて考察すること、という2つの観点から研究を行った。 (1)については、近年出版された英米の音楽理論書を読み解き、国際音楽学会に参加して関連研究を聴いたほか、そのような研究を遂行している関連研究者を招いてレクチャーを通した研究交流を図った。これらにより、昨今の当該分野では、いわゆる「音楽理論家」の理論や分析と、演奏家や演奏現場の作品理解との関係を探ろうとする傾向が表れていること、それによりそれ以前の時代における音楽理論家との差異化を図ろうとしていることを確認した。 (2)については、当該分野の代表的理論であるシェンカー理論と、それに時代的に遅れる形で台頭してきたネオ・リーマン理論との関係が音楽理論家たちの言説においていかに捉えられているかを、両理論を扱った研究を読解することで明らかにした。これに先立ち、両理論が基づいているシェンカー自身、リーマン自身の理論的概念を把握するため、一次史料の調査を行い、彼ら自身の概念と、その後アメリカで展開された概念との違いを明確にした。それらを踏まえて行った口頭研究発表では、両理論の関係を扱った研究を、両理論のすみ分けを図り共存させないケース、すみ分けを図りつつ両理論をともに用いるケース、両理論を(疑似的に、あるいは修正のうえ)統合させるケースに分類された。結果として、両理論をめぐる諸論考は、音楽理論や分析の「方法」や「解釈」をめぐる議論を呼び起こすという効用を、当該分野にもたらしていることが観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究実施計画は、おおむね達成することができたと考えている。まず、20世紀後半以降のアメリカ音楽理論の動向、とりわけ近年の新動向を、関連文献だけでなく関連研究者によるレクチャーという形でより直接的にも確認できたことの意義は大きい。また、これを通して、今後の研究交流や共同研究の芽が萌し、平成29年度以降の研究計画を遂行するうえでも、大きな助力となるだろうことも、収穫の一つである。また、音楽理論同士の関係、およびそれをめぐる議論がもつ効用に関して考察したことで、研究代表者がこれまで専門的に扱ってきたシェンカー理論だけでなく、それに遅れる形で近年精華を迎えているネオ・リーマン理論の全体像を把握することができた。両理論、とくに後者の理論は、日本ではほぼまったく知られておらず、実像が不明なままであるだけに、日本語での論考を研究会および学会で発表することができたのは、一つの成果といえる。 今後は、平成28年度に国内学会等で発信した成果をより深め、国際的な場で発表することが求められるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度以降は、平成28年度に行った研究交流で獲得した知己や知識をもとに、両理論の関係をめぐる諸論考を観察するのみならず、独自の観点から音楽理論の展開を示唆ないし提案することが必要であると考えられる。そのため、人的ネットワークを広げることや自身の提案の妥当性や発展可能性を問うことを目的として、国際学会で研究成果を発信する。これを通して、さらなる課題や今後の研究の方向性を見据えていく。同時に、平成28年度に行った口頭研究発表を論文として公表する予定である。 いっぽう平成29年度には、音楽理論以外の分野(例えば音楽学)が音楽理論という分野に及ぼした影響(あるいはその逆)を探査することを目的の一つに掲げているため、音楽理論系の学会だけでなく、音楽学系の学会の動向をたどり、両分野にまたがって研究を行っている研究者から助言を求める必要も出てくるだろう。また、これについて考察することは、そもそも研究のスコープが広すぎるため、どの観点に焦点化するかが重要なポイントとなってくる。それについては、英米の音楽理論や音楽学に精通している研究者の助力を得つつ研究を進め、論点を絞ったうえで研究発表を行う予定である。
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Causes of Carryover |
口頭発表を行った学会の全国大会が勤務地から近かったために、予定していた旅費の全額を要さなかったこと、また参加した国際学会が日本で行われたことから、当該助成金が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度には、フランスのストラスブールで開催される国際学会での発表が予定されているため、旅費が計画された額を上回る可能性がある。当該助成金はこの旅費および要旨および予稿作成に対する英文校正費に充当する予定である。
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