2021 Fiscal Year Annual Research Report
A Syntactic Study of Max Reger's Lieder
Project/Area Number |
16K16722
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Research Institution | The International University of Kagoshima |
Principal Investigator |
伊藤 綾 鹿児島国際大学, 国際文化学部, 教授 (50767043)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 歌曲作曲技法 / 拍子記号の独自性 / モティーフの拡張 / 歌曲作曲技法 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度は「レーガー歌曲における拍子記号の変更の独自性」について分析・考察した。具体的には、レーガーの歌曲全289曲中1小節のみの拍子記号の変更が用いられている曲は42曲存在するが、それらは1)拍子記号と同様の拍節に変化するもの、と2)拍子記号とは異なる拍節に変化するもの、に分けられる。多くの作曲家は、テクストの特定の言葉を強調するために拍子記号の一時的変化を用いているが、レーガーの2)の場合には、言葉の強調は意図されていない。むしろ、拍子記号という視覚的情報と、拍節という聴覚的情報の齟齬をひとつの作曲技法として用いていると言えよう。 研究期間全体を通して、レーガー独自の歌曲作曲技法を明らかにすることを目的とし、分析と考察を行ってきた。レーガーの歌曲全曲を詳細に分析することは叶わなかったが、分析を行った楽曲からは少なくとも①ひとつないし複数のモティーフを楽曲全体に拡張させる手法②1小節のみの拍子記号の変化をもつ楽曲において、拍子記号(視覚的情報)と拍節(聴覚的情報)に齟齬を持たせる手法、のふたつが明らかとなった。また、レーガーが1899年から1903年にかけて、断続的かつ集中的にリヒャルト・シュトラウスの歌曲を研究したことが、これら独自の手法を生み出す過程に明らかに影響をおよぼしていることが分かった。 レーガーの歌曲におけるR.シュトラウスの影響については、既に多くの文献で言及されてきたが、最終的には同じテクストを持つ歌曲作品を比較分析し、両者のうちどちらがよりテクスト内容を音楽で表現することを成功しているのか、という作品評価的な結論を下している研究がほとんどであった。本研究においては、シュトラウスの影響を受けつつも彼とは異なる手法を生み出し、それをレーガー独自の作曲技法として昇華させたことを証明できた点が、先行研究とは一線を画するひとつの大きな成果といえる。
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