2016 Fiscal Year Research-status Report
15世紀ローマの壁画装飾事業にみられる競合意識について
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16K16731
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
荒木 文果 慶應義塾大学, 理工学部(日吉), 講師 (40768800)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 壁画 / 15世紀ローマ / 競合意識 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、既に提出した研究実施計画に従い、ローマのサンタ・マリア・イン・アラチェリ聖堂にあるブファリーニ礼拝堂の祭壇壁面にフランチェスコ会の聖人シエナの聖ベルナルディーノのアトリビュートが描かれなかった理由について、列聖運動と関連付けながら考察を行った。第7回総合文化学会(福岡・5月)や本務校で開催された研究会「研究の現場から」(横浜・6月)において研究の進捗状況を発表し、意見交換を行ったうえで、第34回国際美術史学会(9月・北京)でその成果全体を公表することができた。国際美術史学会での英語による口頭発表においては、フロイトのタブーの概念を援用しながら、従来注目されてこなかったアトリビュートに類似したモチーフにこそ礼拝堂壁画制作当時の聖人に対する熱狂的な崇敬が示されていることを新たに提言した。また、今年度の研究課題遂行に加えて、次年度に関わる調査として、ローマ出身の女性で聖人となったフランチェスカ・ロマーナの関連図像と資料の収集も視野に入れた調査を、N.Y.(2016年9月)とローマ(2017年3月)で実施した。さらに、研究計画全体のテーマである競合意識を論じる上で、15世紀にドメニコ会の修道院があったサンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ聖堂の第一回廊に制作されたフレスコ画連作(16世紀の改築で全て消失)にも新たに注目する必要が出てきた。現在、本回廊の壁画がドメニコ会の宿敵ともいえるフランチェスコ会が管理していたアラチェリ聖堂のブファリーニ礼拝堂壁画の図像へ影響を与えた可能性に言及する論文を執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、研究成果を国際美術史学会で公開することをひとつの大きな目標としてきた。その内容は既に論文集に投稿済みである。また招待発表(東京・イタリア文化会館・イタリア語)やその論文集への投稿、招待講演(東京・ワールド航空)など、4か年の研究計画全体に関わる話題を広く知って頂く機会を得た。来年度はローマ出身の女性で聖人となったフランチェスカ・ロマーナの生涯を描いた壁画(ローマ、トッレ・デ・スペッキ修道院)について論考を進める予定だが、その前調査として2017年3月に年一度しか公開されない本壁画を既に実見できたのは大変大きな収穫であった。よって、当初の計画を多少前倒しで研究が実施されていると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、先述したローマ、トッレ・デ・スペッキ修道院の壁画に関する研究を進める。同時に、3年目に予定していた15世紀のシスティーナ礼拝堂壁画装飾事業における画家同士の競合意識についての論考を共著にて発表する予定である。一方、当初は想定していなかったミネルヴァ修道院の第一回廊にかつて存在したフレスコ画連作についてもアラチェリ聖堂にあるブファリーニ礼拝堂壁画との関連から考察する必要性が出てきた。よって、研究計画に多少の軌道修正しながら、1年目に収集した画像および基礎資料を用いて、適宜研究会・学会等での発表を経て論文化したいと考えている。
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