2017 Fiscal Year Research-status Report
15世紀ローマの壁画装飾事業にみられる競合意識について
Project/Area Number |
16K16731
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
荒木 文果 慶應義塾大学, 理工学部(日吉), 講師 (40768800)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | ローマ / 15世紀 / フラ・アンジェリコ / 壁画 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、昨年度の研究遂行時に必要性が浮上したサンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ聖堂の第一廻廊装飾壁画に関する研究を進めた。それは15世紀半ばに、スペイン人枢機卿フアン・デ・トルケマダがフィレンツェの画家フラ・アンジェリコに制作を依頼したとされる「瞑想」と題されたフレスコ画群である。注文主も画家もともにドメニコ修道会士という本壁画は、完成の約1世紀後にすべて失われたものの、写本や挿絵印刷本から、壁画の主題や図像がある程度知られている。それによると、壁面には聖書に取材した物語場面と祈とう文に加えて、座って瞑想する修道士の図像が多数描かれていたことが判明している。 本壁画については、長く作者帰属や制作年代に関心が寄せられてきたが、申請者は、従来議論の的となってこなかった修道士の図像に注目し、その背景にあるドメニコ修道会の精神性や図像の典拠、機能を探った。結果、本廻廊装飾における修道士の図像の源泉は、写本装飾にしばしば登場する同モチーフにあり、それが写本において果たした役割と同様に、鑑賞者を祈とう瞑想へ導くと共に、壁画を通じて示されるドメニコ修道会の役割を喧伝していたことを明らかにした。さらに、「瞑想」という著作ジャンルにおいて、ヨーロッパで圧倒的な影響を誇っていたフランチェスコ会との関わりから、ミネルヴァの廻廊装飾には、写本を想起させる画面構成が必要であった可能性を指摘した。 以上の考察は、第19回藝術学研究会および第10回総合文化学会(ともに福岡・8月)での口頭発表を経て、既に「西洋中世研究」(査読あり)に掲載されている。 また、トルケマダ枢機卿と1480年代にミネルヴァ聖堂のカラファ礼拝堂壁画を制作させたカラファ枢機卿との関連性についても考察を進め、米国ルネサンス学会(ニューオリンズ、3月)で口頭発表を行い、広く意見交換を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、先述した「研究実績の概要」の内容に加えて、申請時の計画に盛り込んでいたシスティーナ礼拝堂壁画装飾事業における画家の競合意識についての考察も進めた。本事業は、時の教皇シクストゥス4世の発案で行われたものである。1481年には、フィレンツェとウンブリア出身の画家サンドロ・ボッティチェッリ、ドメニコ・ギルランダイオ、コジモ・ロッセッリ、ピエトロ・ペルジーノが壁画装飾のためにヴァチカンへ招聘された。彼らは既にめいめいが工房をもつ独立した親方たちであり、壁画の調和を保つため、さまざまな取り決めのもとで共同制作を行った。従来の研究では、その協力的な側面が強調される傾向にあったが、申請者はボッティチェッリの画面の特異性に注目し、そこに画家の芸術家としての強い自意識が読み取れると考えている。平成29年度は、以上の論考を既に日本語でまとめたが、来年度、イタリアのカンピサーノ社から出版される予定の書籍に掲載するため、現在イタリア語訳を進めている。 以上から、当初の計画以上に進展していると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
申請者は平成29年度に獲得した小泉信三記念基金の出版助成補助により、平成30年度に、イタリアのカンピサーノ社から書籍を出版する予定で準備を進めている。それは本科学研究費のテーマ「競合意識」を扱ったものである。よって、これまでの研究を一旦まとめる作業に充てるつもりである。
|
Causes of Carryover |
米国ルネサンス学会の発表原稿ネイティヴチェック[人件費]として想定していたが、友人がチェックをしてくれたため不要となった。来年度、イタリア語による書籍出版の際のネイティヴチェックにかかる費用として計上したいと考えている。
|