2021 Fiscal Year Research-status Report
15世紀ローマの壁画装飾事業にみられる競合意識について
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16K16731
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
荒木 文果 慶應義塾大学, 理工学部(日吉), 准教授 (40768800)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イタリア・ルネサンス / フランシスコ会 / ドメニコ会 / 競合意識 / 15世紀 / 壁画 / ローマ |
Outline of Annual Research Achievements |
ローマのサント・スピリト・イン・サッシア病院には、教皇シクストゥス4世(在位:1471‐1484年)の生涯に取材した逸話を中心とした44場面からなるフレスコ画連作がある。教皇存命中に制作された壁画であるが、シクストゥス4世の誕生前の逸話から、天国に召されるまでの様子が絵画化された他に類例のない作品である。 本壁画については、伝来する関連史料が乏しく保存状態も悪いため、美術史的観点からの研究は困難を極めてきた。それに対して21年度は、この壁画の視覚的特異性として次の2点に注目した。ひとつは、装飾写本を思わせる画面構成である。本壁画は、多数の物語画面からなり、各物語の下の区画に、人文主義者バルトロメオ・プラティナが教皇に献上した『教皇伝』から着想した長い銘文が刻まれている。ふたつめは、繰り返し登場する教皇の肖像の存在である。連作において教皇は30回以上登場するが、当時これほど多くの肖像画を残した教皇はほかにいない。そして、壁画制作にさきだち新たに書物が編まれたという制作の経緯や本壁画の視覚的特異性が、ドメニコ会のローマ市街地における活動拠点であったミネルヴァ聖堂第一廻廊の壁画にも確認されることを指摘した。1460年代に描かれた『瞑想』連作(消失)である。さらに、この一致は単なる偶然ではなく、フランシスコ会士であった教皇のドミニコ会に対する競合意識と関連付けて考えうる可能性を新しく提言した。この提案については、既に研究会やシンポジウムで公表し、多くの助言を得たうえで、慶應義塾大学日吉紀要『人文科学』37(2022)に投稿し、掲載が決定している。 また、Hiyoshi Research Portfolio 2021でのポスター発表(慶應義塾大学日吉キャンパス)に参加し、これまでの研究の一部を広く公開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の内容を2019年の段階でまとめ、ローマで出版した自著が学術賞(ダリア・ボルゲーゼ賞)を受賞することとなった。これはローマを対象とした功績(研究や修復事業など)をあげた外国人(非イタリア人)を年にひとり選出するものであるが、これまでの受賞者は、欧米を中心としたラテン語圏の研究者に限られてきた。若手研究で継続してきた内容が国際的にも認められ、残されていた課題も解決に向かいつつあることから、当初予定していた以上の結果を残すことができていると言ってよいのではないかと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる今年度は、研究成果を論文にまとめるなかで生じたいくつかの疑問点を、可能な限り解決していく。具体的には、①アッシジの聖フランシスコ聖堂とローマのサント・スピリト・イン・サッシア病院のファサードや内部空間の関係性 ②教皇シクストゥス4世が発令したフランシスコ会の聖人シエナの聖カテリナの図像に対する禁令の効果 ③システィーナ礼拝堂の側壁面に15世紀に描かれた壁画のうち、コジモ・ロッセッリ作《最後の晩餐》に描かれた肖像画の効果についてである。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により海外調査が不可能であったため。22年度は、現地調査のための旅費、研究公開のための翻訳謝礼、論文執筆のための各種機器購入に充てる予定である。
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