2016 Fiscal Year Research-status Report
中国後漢の墓域における図像の作用-儒教図像史確立のための発展的研究-
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16K16733
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
楢山 満照 成城大学, 文芸学部, 特別研究員(PD) (30453997)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 後漢 / 石闕 / 儒教 / 孝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年度にわたる本研究は、死者を手厚く葬るための複合施設であった後漢時代の墓域に着目し、そこに建つ石造建築「石闕」に浮彫りされた図像の主題を解釈することで、従来はその存在が極めて希薄であったとされてきた「儒教美術」の存在を、中国美術史上に明確に提示することを目的とするものである。 1年目に当たる平成28年度の上半期は、6月に早稲田大学美術史学会総会において研究発表をおこなった。この内容は、研究代表者が本研究と同時に採択されている特別研究員奨励費(課題番号15J06384)の研究内容と密接に関わるものである。この発表では、本研究で着目する石闕に図像化された儒教図像に関して現時点での解釈を述べ、特別研究員奨励費の研究内容を学術的に補足した。儒教においては、崇祠する対象を目に見えるかたちで造形化する際にいかなる方法がとられてきたのか。そしてそれは、仏教伝来以後、どのように変化していったのか。この点について、石闕の図像に着目していく必要性を、あらためて提示した。 下半期は、京都の泉屋博古館で関連資料(後漢時代の銅鏡)を実見調査したのち、3月11日から20日にかけて、中国四川省で現地調査を実施した。四川省文物考古研究院と成都博物館には、倒壊した後漢時代の石闕の残石が保管されている。実見調査により、それらには、死後の世界やそこに旅立つ様子だけではなく、日常の生活風景や未報告の孝子たちの教訓物語(儒教の教訓話)が彫刻されていることを確認することができ、現時点での本研究の見解の裏付けとなる資料であることが分かったのは、大きな収穫であった。 現地調査を終えたのち、現在まで調査をもとに図像の分類作業を進めている。本研究の初年度であるため、まだ活字化された業績は少ないが、来年度はその成果を学術雑誌に投稿することで、貴重な後漢時代の儒教説話を儒教図像史の上に定位させることが見込まれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中国においては、諸般の事情により当初の計画通りに調査を実施することができないことも多い。しかし、本年度は計画通りに四川省で現地調査を実施することができ、作品の所蔵先のご厚意により、作品の熟覧調査が許された。それにより、既発表の報告書には未掲載の儒教説話図像を確認することができた、現時点での本研究の見解の裏付けとなる資料を見出している。 また、研究代表者は、本研究とは別に、平成27年度から3年度の予定で日本学術振興会特別研究員奨励費(PD)の交付を受けている。その研究課題は本研究で見込まれる成果と密接な関連性があり、来年度の双方の研究成果は相互に補完し引用し合うものになると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
上半期は、9月に実施予定の四川省渠県での現地調査に向けた資料の収集をおこなう。渠県に現存する石闕の実作例に関しては、平成19、20年度採択の若手研究(スタートアップ)において、予備調査を終えている。よって、これまでの調査資料の整理と、高画質デジタルデータをもとにした図像の詳細な描き起こし図の作成を進め、現地調査では図像細部の確認をおこなうとともに、近年リニューアルオープンしたという渠県博物館の展示を見学する予定である。 下半期は、石闕の儒教図像を対象とした本研究をまとめるため、補足調査としてアメリカ・ミズーリ州ネルソンアトキンズ美術館所蔵の後漢の石闕の残石を調査する。その後、『漢旧儀』、『続漢書』礼儀志、および同書祭祀志に記された葬礼の典範を精査し、その内容を、二年にわたる作品調査の調書、および図像データと照合する作業をおこなう。それにより、これまで等閑視されてきた死者の葬礼における儒教図像の作用を、文献と作品の双方から実証していく。歴代、東アジア文化圏共通の社会倫理となってきた儒教。そのイデオロギーと美術との関係を再定義する成果を、この下半期には国内外を問わず論文として発表する。これにより、二年にわたる本研究の成果は、中国美術史上における儒教美術の存在とその意義に関する注目を喚起し、仏教美術やキリスト教美術との学際的な比較研究につながるものと考える。
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Causes of Carryover |
年度末に実施した中国四川省での現地調査の経費が、当初予定していた金額よりも下回ったため、残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度の報告書の印刷経費に使用する予定である。
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