2016 Fiscal Year Research-status Report
現代音楽劇における「間」の美学:トランスカルチュラリティの地平
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16K16750
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
北川 千香子 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 講師 (40768537)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 間 / オペラ / 音楽劇 / 待つこと / 細川俊夫 / トランスカルチュラリティ / ハルトムート・ローザ / 加速化理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、欠如、空白、余白、沈黙といった不在性の上位概念として「間」を位置づけ、現代の日欧のオペラ/音楽劇におけるその諸相を明らかにすることを目的としている。「間」の美学の変遷を明らかにするため、まずは、これまで行ってきた研究(ワーグナー研究)をふまえて、リヒャルト・シュトラウスやアルノルト・シェーンベルクなど20世紀以降のドイツ語圏のオペラ/音楽劇を事例として、「欠如」の一形態である「待つこと」を手掛かりに研究を進めた。その際に、「待つ」という状態のなかで顕在化する、言葉の不在と音楽および身体性との関係に焦点を絞り、その成果を日本独文学会中国四国支部学会で発表した。同時に、古今東西の文学や芸術に登場する「待つ女」のトポスに着目して、ホメロスの『オデュッセイア』のペネロペ像に始まり、ジェイムズ・ジョイスやイザベル・ムンドリーなどの作品におけるペネロペ像の受容を比較考察しつつ、「待つ女」の歴史的・美学的な変遷をたどった。 また、日本の現代オペラの事例として細川俊夫の3つのオペラ作品を取り上げ、各作品での「待つこと」のドラマトゥルギー上の機能について考察した。さらに、各作品における「間」の音楽的構造を分析し、特に二つのトリトヌスから構成される和音(Mutterakkord)と、原初的な5度の音程ないし空虚5度が、「間」を喚起するうえで果たす機能について検討した。これらの作品美学上の分析をふまえ、待つこと、沈黙、静寂といった諸相を示す「間」が、現代の芸術のなかで新たに主題化されることの意味について、社会学者ハルトムート・ローザの加速化理論を援用して考察した。この研究成果は、2017年3月に開催された国際音楽学会東京大会で発表した。加えて、「間」のトランスカルチュラルな特性を浮き彫りにするため、まずは日本文化という文脈で構築されてきた「間」の概念の系譜について検証し、口頭で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、「間」についての理論的基盤を確立することを目指したが、計画遂行の順を入れ替える必要が生じた。まず、作曲家の細川俊夫氏が音楽監督を務める武生国際音楽祭で講演の機会をいただいたため、本来ならば来年度の課題であった、細川氏のオペラ3作品における「間」の音楽分析および日本文化論に関する資料調査を、今年度に重点的に行った。その結果、本来ならば今年度にラカンとデリダを中心とした否定性の理論について考察を行う予定だったが、これを来年度の課題とせざるを得なくなった。また考察を進めていくなかで、現代の芸術における「間」の美学と、ハルトムート・ローザの加速化理論との関連づけが有意義であることが明らかになったため、この理論の分析を当初の計画よりも優先して行った。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、ラカンの「空白」の概念や「他者論」、デリダの「コーラ論」などの理論を援用し、本研究における「間」の理論的基盤を構築する。次に、平成28年度に引き続き、ハルトムート・ローザの加速化理論と「間」の関係について考察する。さらに、サルヴァトーレ・シャリーノとイザベル・ムンドリーの音楽劇作品を例として、ヨーロッパの現代音楽劇における「間」とそれに類する現象のドラマトゥルギー、音楽的構造、トランスカルチュラルな特性について分析する。
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Causes of Carryover |
申請時に購入を予定していた図書(百科事典Musik in Geschichte und Gegenwart、1セット全29巻)がオンライン化されたため、購入の必要がなくなったから。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現代思想関連の図書および楽譜の購入を行う予定である。
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Research Products
(4 results)