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2017 Fiscal Year Research-status Report

現代音楽劇における「間」の美学:トランスカルチュラリティの地平

Research Project

Project/Area Number 16K16750
Research InstitutionKeio University

Principal Investigator

北川 千香子  慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (40768537)

Project Period (FY) 2016-04-01 – 2019-03-31
Keywords間 / 時間 / 「待つ」こと / ポストドラマ演劇 / アンリ・ベルクソン / リヒャルト・ワーグナー / 細川俊夫 / クリストフ・シュリンゲンジーフ
Outline of Annual Research Achievements

本年度も引き続き、欠如、空白、余白、沈黙といった不在性の上位概念として「間」を位置づけ、その一形態として「待つ」という状態に焦点を当てた。リヒャルト・ワーグナーの楽劇《トリスタンとイゾルデ》では、主人公がひたすら「待つ」場面が大半を占めている点で画期的であり、20世紀の劇作品を先取りする劇的構造をもつ。「待つ」状態の中では、物語の外的な進行が静止し、客観的な時間はいわば停滞すると同時に、内的な時間が流れ始める。ここでアンリ・ベルクソンの時間論を援用しつつ、凝縮する時間、停滞する時間、異なる時間軸の交錯した多層的な時間など、さまざまに変容する主観的時間の具現化に、音型の反復進行とライトモティーフが重要な役割を果たしていることを明らかにした。
音楽学的な観点からは、細川俊夫のオペラ作品における「間」の表象を分析した。細川作品の「間」は、静寂と音響の「間」、日本の能と西洋のコレオグラフィーの「間」、そして自然美という非同一性が潜在する余地としての「間」という重層的な機能を果たしている。それは、文化間のボーダーを越えていく「越境演劇」の重要な要素であり、音楽劇の新たな地平を開く可能性を内在させている。
さらに、演劇学的な観点から現代音楽劇における「間」の可能性を探るため、クリストフ・シュリンゲンジーフのオペラ演出を取り上げ、そのポストドラマ的特性と作用について考察した。彼の演劇が試みているのは既存の枠組みの「超越」であり、オペラという伝統的な規範や制度の境界を越える、もしくは打ち破ることである。彼の演出は観客の主体を揺るがせ、自らの価値観やアイデンティティを問い直す契機となる。そうした上演の分析ツールとなるポストドラマ性は、現代における時間と空間をめぐる自己省察の場として機能している。ここに、ポストドラマ性と「間」の機能の共通項を見出すことができた。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

前年度に、音楽劇における「間」の一形態として「待つ」ことに着目し、シューベルト、ワーグナー、シェーエンベルクの作品の分析を行ったが、その段階で、ワーグナーの《トリスタンとイゾルデ》における「待つ」ことの表象の分析が不可欠であることが明らかになり、この課題を優先して行ったため、当初の計画を変更した。また、体調により、当初予定していた海外での調査と研究打ち合わせを見送らなければならなくなり、計画遂行の順を入れ替える必要が生じた。

Strategy for Future Research Activity

引き続き、「間」の一形態としての「待つ」ことと時間の美的構造についての理論的考察ならびに音楽分析を進める。
本年度はまず、昨年度に国内学会で口頭発表した、アルノルト・シェーンベルクのモノドラマ《期待》における「待つ」ことの表象について、主にアウグスティヌスの時間論を援用しながら、時間の音楽的構造を分析し、雑誌論文として投稿する予定である。さらに、イザベル・ムンドリーとサルヴァトーレ・シャリーノのオペラ作品における「待つ」ことの表象について、音楽的、演劇的な側面から考察し、特にシャリーノのオペラにおける、日欧のトランスカルチュラリティの特性について、論文として発表する見込みである。それに先立ち、シャリーノ研究の第一人者であるマックス・ニュフェラー氏と研究内容について意見交換を行う予定である。

Causes of Carryover

体調により海外での学会発表や現地調査を延期しなければならなくなり、研究計画を変更したため。

Remarks

「ジルヴェスターコンサート ロマンティック・ガラ」解説、兵庫県立芸術文化センター公演プログラム、2017年。
「ドイツにおける『ローエングリン』上演史」、東京二期会オペラ劇場公演プログラム、2018年。

  • Research Products

    (5 results)

All 2018 2017

All Journal Article (1 results) Presentation (4 results) (of which Invited: 2 results)

  • [Journal Article] Die Aesthetik der Luecke: Resonanzen des No-Theaters im Musiktheater Toshio Hosokawas2018

    • Author(s)
      Chikako Kitagawa
    • Journal Title

      Recycling Brecht

      Volume: ー Pages: 印刷中

  • [Presentation] オペラにおけるポストドラマ演劇 ― クリストフ・シュリンゲンジーフの《パルジファル》演出(2004)を例として2018

    • Author(s)
      北川千香子
    • Organizer
      日本演劇学会分科会西洋比較演劇研究会シンポジウム「ポストドラマ演劇の現在」
  • [Presentation] 『待つ』ことにおける時間の美的構造 ― リヒャルト・ワーグナー《トリスタンとイゾルデ》を例として2017

    • Author(s)
      北川千香子
    • Organizer
      日本独文学会秋季研究発表会
  • [Presentation] オペラ文化の現状と展望2017

    • Author(s)
      北川千香子
    • Organizer
      獨協大学外国語学部「総合講座」
    • Invited
  • [Presentation] 「近年の《ばらの騎士》演出 - リチャード・ジョーンズの演出を中心に」2017

    • Author(s)
      北川千香子
    • Organizer
      日本リヒャルト・シュトラウス協会第172回例会
    • Invited

URL: 

Published: 2018-12-17  

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