2018 Fiscal Year Research-status Report
現代音楽劇における「間」の美学:トランスカルチュラリティの地平
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16K16750
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
北川 千香子 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (40768537)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 間 / 時間 / 「待つ」こと / サルヴァトーレ・シャリーノ / ポストドラマ演劇 / 現代音楽劇 / オペラ演出 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、不在、空白、余白、沈黙といった諸現象の上位概念として「間」を位置づけ、現代音楽劇においてそれがどのような形態をとって表れているかを明らかにしようとするものである。またそれらの現象が、グローバル化に伴って多様化するオペラ文化においていかなる意味を持ちうるのかを明らかにすることを目指している。 2017年度には「間」の一形態として「待つ」ことに着目し、それが細川俊夫のオペラ《松風》において特有の音楽語法によって音響化されていること分析し、その成果を国際学会で発表したが、2018年度はこの論考に加筆修正を行い国際誌に発表した。さらに、「間」という現象にはポストドラマ性、つまり表面的な物語の静止、直線的な時間の消滅、そしてその静止状態において生じる特殊なダイナミズムについて考察を行った。「間」に内在するポストドラマ性の様相を演出美学的な観点から照らし出すために、クリストフ・シュリンゲンジーフの《パルジファル》演出を例に考察し、その成果を論文として発表した。 今年度は「間」の美学をトランスカルチュラリティという観点から分析することに重点を置いた。具体的には、イタリアの作曲家サルヴァトーレ・シャリーノが『和泉式部日記』を題材として創作したオペラ《氷から氷へ》(2006年)を取り上げ、外的な出来事が不在な中でひたすら描かれる、「待つ」ことの言語的および音楽的な構造を分析した。「待つ」ことにおける時間的静止を喚起するのには、シャリーノの音楽語法を特徴づける執拗な反復の手法がとりわけ重要な役割を果たしていることが明らかになった。同様に、主人公が一貫して「待つ」状態を主題化した、シャリーノのオペラ《掟の門》(2009)の音楽構造について、現在分析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年度は4月1日より2019年1月20日まで諸事情により研究を中断することを余儀なくされ、当初計画していた学会発表や海外出張を見合わせる必要があったため。
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Strategy for Future Research Activity |
サルヴァトーレ・シャリーノのオペラ《掟の門》における、「待つ」ことの言語的・音楽的構造を分析し、2019年6月にライプツィヒ大学で開催される、国際ブレヒト学会で発表することが決定している。2019年8月には、シュリンゲンジーフの《さまよえるオランダ人》演出における不在性の美学について、アジアゲルマニスト会議で発表する。2019年12月あるいは2020年1月に、慶應義塾大学で開催予定の国際シンポジウムで、サルヴァトーレ・シャリーノのオペラ《氷から氷へ》における「間」とトランスカルチュラリティの関係について研究成果を発表する。さらに、サルヴァトーレ・シャリーノのオペラ《ローエングリーン》における沈黙の諸相についても学会で発表する予定である。
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Causes of Carryover |
2018年度は諸事情により研究中断を余儀なくされたため、2018年度に使用する予定であった助成金を2019年度の研究活動に充てる。6月にライプツィヒ大学で開催される国際ブレヒト学会への参加に必要な経費を支出する。また、8月には資料収集および研究打ち合わせのためにドイツに出張するにあたって必要な経費を支出する。その他、サルヴァトーレ・シャリーノの音楽劇およびクリストフ・シュリンゲンジーフのオペラ演出に関連する資料の購入代金として計上する。
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Remarks |
その他の業績 ・『「愛による救済」というユートピア――《タンホイザー》における逡巡の軌跡』、新国立劇場《タンホイザー》公演プログラム、24-27、2019年 ・『「新しい形式」を求めて――《さまよえるオランダ人》に至る人生の歩み』、「東京・春・音楽祭 2019」公式プログラム、46-49、2019年
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Research Products
(3 results)