2016 Fiscal Year Research-status Report
日本近代写真史と近代デザイン史再構築を目的とした広告写真の先駆者 金丸重嶺の研究
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16K16751
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
鳥海 早喜 日本大学, 芸術学部, 講師 (20747993)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 金丸重嶺 / 新興写真 / 商業写真 / 広告写真 / ベルリンオリンピック / 日本写真史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本の近代的な広告写真の表現及び社会的な地位を構築した写真家である金丸重嶺について調査研究するものである。これまで広く周知されてこなかった金丸による写真家活動を分析し、既存の日本写真史に組み込むことで日本近代写真史を再構築することを主な目的としている。 平成28年度は、約2,800 点の写真資料の再分類及び調査を行った。本調査により資料は「東京1920年代」「金鈴社」「P.C.L」「満州 1933年」「ベルリンオリンピック 1936年」「欧州風景1936年」「武漢進攻作戦1938年」「国策宣伝」の8つに分類した。これらは時代順と併せて写真作品の傾向による分類である。 金丸の資料は、ごく初期の作品は同時代の写真界の流行であったピクトリアル写真であるが、1920年代後半からは新興写真らしい斜め構図やデザインに凝った写真表現などが増加していく。「金鈴社」に分類した広告写真は、無論のことデザイン性が高い傾向にあるが、併せて写真のリアリティを効果的に活用している。この「写真のリアリティ」に対する比重は時代を追うごとに増し、「満州」以降、リアリティのある写真表現へと金丸の写真は展開していくことが明確となった。 本調査結果は、2017年2月18日(土)~3月3日(金)に日本大学芸術学部芸術資料館にて「没後40年記念展覧会 写真家金丸重嶺 新興写真の時代1926-1945」として発表した。本展覧会では既存資料に加えて、専門家である志賀裕一氏の協力を経て制作した銀塩写真によるニュープリントも公開した。また展覧会と併せて『FONS ET ORIGO Vol. XX, No.1 Spring 2017 没後40年記念 写真家金丸重嶺 新興写真の時代1926-1945』を研究者の企画編集によって発行した(2017.2.18日本大学芸術学部写真学科)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究はほぼ、従来の予定通りに進行している。平成28年度は資料の再分類と成果報告としての展覧会の開催及び関連刊行物の発行を目標としていたが、いずれも達成することが出来た。 また、展覧会の開催を経て金丸研究を認知してもらい、協力・助力の意思を伝えてもらえたことは計画を超えた反響であったといえる。写真分野の先行研究者からの助言や指摘は無論のこと、デザインや文化史の研究者からも意見をもらえたことは大変価値のあることであった。金丸の写真家としての活動を詳らかにすることが、写真界のみならず他分野にも影響を与えるであろうことは計画を立てる時点でも少なからず仮定していた。しかし、専門家の助力を経て研究を発展することができれば、想像以上に広義における表現分野全体の歴史や表現の変遷、もしくは日本文化史に新たな視座を加えられる可能性があるということを見出すに至っている。 研究を計画通りに遂行することは無論のこと、今後はより幅広い視野をもちながら研究を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
<平成29年度> 1.金丸と名取洋之助の比較調査:名取研究者である白山眞里氏の協力を得て、金丸と同様に1936 年のベルリンオリンピックを取材した名取との比較調査を行う。具体的には、同一の撮影対象やカメラポジションによる撮影など共通点のある写真を比較することで、より具体的に彼らの写真表現や理念の相違を明らかにしていく。併せて二人の写真が日本国内でどのように受容されたかについても考察を加える。 2.近代デザイン史と日本近代写真史の融合を目的とした調査:1930 年代初期においてデザインと写真の重要な融合点であったと仮定している。商業美術同人会「七人社」による雑誌『アフィッシュ』(1927~1933 刊行、日本大学芸術学部デザイン学科が復刻版を所蔵)の詳細な調査を行い、如何に双方が強く影響を与えあっていたかを考察する。これにより、日本近代写真史と近代デザイン史を相関させた新たな近代的表現分野史の土台構成を試みる。
<平成30 年度> 最終年度は、前年度の成果報告としてJCII フォトサロンにおいて展覧会「1936 名取洋之助×金丸重嶺(仮)」を開催する。展覧会に関連してシンポジウムを実施する。前年から続く研究によって金丸研究と名取研究がそれぞれに深化するだけではなく、1930 年代の日本写真界の状況や写真家の立ち位置を明らかにしていく。また下期には、本研究の総括として金丸の写真家として果たした役割を明示し、それによって如何に日本近代写真史が再構築出来たかを検討する。この時点で再構築出来た部分や不十分である要素を列挙し今後の研究課題を明確にする。加えて、日本近代写真史と近代デザイン史の融合に関しては、前例のない表現分野史の構築であるため、融合点や接点などを具体的に示し、個人の研究としてだけではなく今後広く周知し、さまざまな見地から考察を加えることが可能になるように土台を完成させる。
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Causes of Carryover |
成果発表として展覧会を開催するにあたり、新たに複写データから写真プリントを制作することを想定し印刷用プリンタの購入を検討していた。そのために20万円を必要費用として確保していた。また、他にも印刷用紙・インク等の購入を検討していた。しかし、金丸資料にはネガが多く含まれており、本研究では専門家である志賀裕一氏に協力を依頼し、暗室作業による銀塩プリントにて金丸による写真作品のニュープリントを制作した。そのため、印刷用紙・インク代として確保していた予算に関しては、銀塩写真用紙・薬品代として使用したが、プリンタ代のみ次年度へ持ち越すこととなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
未使用金となった約20万円は、平成28年度調査により知識不足を感じることとなったデザイン史や日本のデザイン分野の成り立ちを調査及び考察するための費用として用いる予定である。
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Research Products
(1 results)