2017 Fiscal Year Research-status Report
日本近代写真史と近代デザイン史再構築を目的とした広告写真の先駆者 金丸重嶺の研究
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16K16751
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
鳥海 早喜 日本大学, 芸術学部, 講師 (20747993)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 金丸重嶺 / 新興写真 / 広告写真 / 報道写真 / 日本写真史 / ベルリンオリンピック / バウハウス |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、主として1936年のベルリンオリンピック取材に関する調査を行った。具体的には半年間の渡欧期間に撮影されたネガフィルム、写真アルバム、日記といった実資料調査、及びベルリンにおける現地調査などを行った。本調査により、この渡欧が以後の金丸にとって大きな契機となったことが明らかとなった。特筆すべきは以下の3点である。 1点目は、この渡欧が広告写真を牽引していた金丸の報道写真家としての起点となったことである。オリンピック取材においては、それまでの演出を加えた広告写真制作のスタイルとは異なり、新聞紙面に載ることを前提とした瞬発力の高い臨機応変な制作に取り組んでいる。金丸はその後、日中戦争で従軍取材を行うなど報道の分野でも活動することになる。 2点目は、日本における広告写真の質向上と普及活動の必要性に関する確信である。金丸は新興写真の始まりの地であるドイツにおいて、広告写真の質の高さと豊かさを実感した。このことが金丸に日本の当該分野の底上げの必要性を問うた。これを機に金丸は、教育活動や社会活動に邁進することになる。そして、3点目は写真を活用した大型広告に対する認知である。ヨーロッパで写真を用いた大型広告(写真壁画)やショーウィンドウを多見した金丸は、帰国後、写真家としての撮影活動だけではなく、政府による国策宣伝としての展覧会の企画・制作などに取り組んでいる。これらの仕事は期せずして戦意高揚のための写真壁画「撃ちてし止まむ」制作へと昇華された。 また、本調査の後、同オリンピックを撮影していた日本人である名取洋之助との比較調査を白山眞里氏の協力を得て行った。これにより、双方の撮影目的や制作傾向の相違を考察することができた。本調査結果は、平成30年度に展覧会「金丸重嶺vs名取洋之助 オリンピック写真合戦1936」(2018.6.5~7.1 JCIIフォトサロン)として発表する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は概ね従来の計画通りに進行している。平成28年度は資料の再分類と成果報告としての展覧会開催及び関連刊行物の発行という目標を達成することができた。平成29年度は金丸と名取洋之助の比較調査、近代デザイン史と日本近代写真史の融合を目的とした調査という2点を課題としていた。 前者については、1936年のベルリンオリンピックを調査対象として比較を行うことができた。それにより写真制作の目的や傾向の相違点などを考察することができた。これについては平成30年6月に展覧会という形式にて成果発表を行う。 後者については、計画段階では1927年に刊行開始となったポスター研究雑誌『アフィッシュ』を調査対象としていたが、調査対象を変更することにした。調査が進行する中で、同時期に「新興表現」として日本に導入されたデザインと新興写真が、牽引国であったドイツではどのように分類されたのか、日本では如何に解釈されたかを考察する必要があると考えたためである。 そのため、本課題については、1919年に設立されたドイツの教育期間バウハウスにおける教育と日本大学芸術学部における写真教育を比較することにした。これにより、バウハウスにおけるデザインと写真の関係、日本における同関係の解釈と普及について分析を行った。分析調査からの考察は論文として発表する(2018年6月に日本写真芸術学会誌に掲載予定・査読済み)。 本研究の主たる目的は、日本の近代的な広告写真の表現及び社会的な地位を構築した写真家である金丸重嶺に関する調査研究、及び日本近代写真史の再構築であるが、引き続きデザインや他の表現分野との接点と関係性を常に意識しながら研究を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の最終年度となる本年は、以下のように前年度の成果報告を行う。金丸と名取洋之助の比較調査については、展覧会「金丸重嶺vs名取洋之助 オリンピック写真合戦1936」(2018.6.5~7.1 JCIIフォトサロン)を開催する。関連して6月9日には講演会の実施を予定している。ここでは、金丸と名取がそれぞれドイツの地に何を目的に向かい、何を成したのか、その成果を如何に日本文化に導入しようとしたかを議論する。講演会は共催者であるJCIIフォトサロンの白山眞理氏とともに登壇する。 また、日本写真史とデザイン史の関係性に関する研究については 6月に刊行される日本写真芸術学会誌に論文「日本大学専門部芸術科写真科とバウハウスに関する一考察」を発表する。 調査としては平成28年度、平成29年度に実施した各調査結果の総合的な分析を行う。また、展覧会や刊行物発行により新たに収集することの出来た情報等を考察に加えることにより従来の調査研究結果を多角的に再度考察する。最終的には、本調査研究の総括として金丸の写真家としての役割を明示し、それらの活動が如何に日本写真史に影響を与えたかを考察し、写真史の再構築を試みる。特にこれまで写真史では重要視されてこなかった教育の部分や、デザイン等の写真と近接した他表現分野との関連性などを組み込めるものと想定している。 加えて再構築した写真史を基に現在の日本における問題点を導き出すことを試みる。その上で、問題点の解決方法を検討し、国内外の写真業界及び社会的な事象の変化や時流を鑑みながら新たな研究課題を明確にしていく。
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Causes of Carryover |
旅費に関して、予定よりも旅行地への滞在期間が短くなったことにより差額が発生した。 平成30年度に旅費等として活用する。
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Research Products
(3 results)