2018 Fiscal Year Research-status Report
江戸時代中期の女流文学者荒木田麗女の歴史物語・連歌作品研究
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16K16757
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
雲岡 梓 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (30732888)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 歴史物語 / 笠舎 / 荒木田麗女 / 日本書紀 / 四鏡 / 要書目 / 書目 / 仮託的構成 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度においては、主として荒木田麗女の歴史物語『笠舎』の研究に力を入れ、『笠舎』全33冊中15冊までの翻刻が完了した。これは神武天皇から安徳天皇までの81代間の出来事を記す本書の、桓武天皇までの部分に相当する。また、全体像の解明を進め、成立当初は55巻本であった本書の一部が失われ、さらに清書の過程で上下巻が統合され、現存の33冊本となった経緯が判明した。 さらに内容の分析から、本書の古代に関する記事は『日本書紀』を主要な典拠とし、『日本書紀神代巻評註』『日本書紀諺解』『日本書紀神代巻風俗鈔』『日本書紀合解』『日本書紀神代私説』『神代口訣』『神代巻塩土伝』『神代巻直指詳解』『神代巻藻塩草』等の注釈書類を参照しながら執筆されたことを明らかにした。麗女が上記の資料を参照していたことは、麗女の蔵書目録である『要書目』『書目』に書名が記載されていることからも確認できる。 麗女は『笠舎』執筆にあたり、これらの漢文体の資料を和文体に直し、そこから大筋に関わらない出来事や台詞、地名人名等を省いて記事を圧縮している。そしてそこに『万葉集』等から和歌を引用することによって物語的情趣を加えている。 これらの成果を論文「荒木田麗女の歴史物語『笠舎』の全体像」にまとめ、『国語論集』16号(北海道教育大学釧路校)に掲載した。この論文によって、これまで一般に存在を知られていない、四鏡と同様の仮託的構成を有する長編歴史物語の存在とその全体像を提示したことは、荒木田麗女の研究に留まらず、歴史物語研究の面からも意義深い。 今後はさらに翻刻作業を進め、その成果を『日本文芸研究』第71巻1号に投稿する予定である。また、『笠舎』序文の特異性についても考察する計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、研究計画の最初の2年間で荒木田麗女の未翻刻資料を所蔵する実践女子大学図書館・白百合女子大学図書館・神宮文庫等を訪ね、書誌調査と資料収集を行うことを計画していた。そしてその後の2年間で収集した資料を翻刻し、テキストを整備する予定であった。現時点において、調査・収集する予定であった資料の大部分を調査し終え、コピー・紙焼き・電子データの形で本文の入手が完了している。そして入手した資料の翻刻作業を進めると同時に作品の概要や内容研究に着手しているため、本研究課題は順調に進捗していると言える。 荒木田麗女の連歌作品と歴史物語作品の研究を課題としているが、特に歴史物語の分野について、長編歴史物語『笠舎』の諸本の残存状況を一覧表にまとめる等、分析が進んでいる。連歌作品については、成果を論文上で発表するには至っていないが、麗女の連歌の特色である詳細な自注の内容とその意義について、分析を進めている。その成果は次年度に、俳文学会東京研究例会にて発表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
長編歴史物語『笠舎』の翻刻に出典等の注釈を付し、「荒木田麗女の歴史物語『笠舎』1~5巻の研究 付翻刻」、「荒木田麗女の歴史物語『笠舎』6~10巻の研究 付翻刻」、「荒木田麗女の歴史物語『笠舎』11~15巻の研究 付翻刻」、「荒木田麗女の歴史物語『笠舎』16~20巻の研究 付翻刻」、「荒木田麗女の歴史物語『笠舎』21~25巻の研究 付翻刻」、「荒木田麗女の歴史物語『笠舎』26~30巻の研究 付翻刻」、「荒木田麗女の歴史物語『笠舎』31~33巻の研究 付翻刻」との題で、順次公開する計画である。『日本文芸研究』第71巻第1号(関西学院大学)に投稿予定であり、既に所蔵機関の「翻刻・掲載許可書」を取得済みである。 また、連歌作品の研究に関しては、『麗女独吟千句』『鵙の草ぐき』『竹の落葉』『麗女独吟百韻』の自注に着目し、同時代の連歌師里村昌陸の連歌に付される自注の内容との比較を進めている。その成果については、俳文学会東京研究例会の2019年5月例会にて発表予定である。研究会発表を行うことによって他の連歌研究者の意見を求め、内容をさらに発展させた後、論文にまとめる計画である。この研究によって、俳諧の隆盛と反比例して衰退していったと考えられている近世連歌が、どのように命脈を保ち、中世連歌と異なった発展を遂げて行ったかを明らかにしたいと考えている。
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Research Products
(6 results)