2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K16759
|
Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
原田 敦史 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (90584657)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 軍記物語 / 平家物語 / 保元物語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はまず、『平家物語』巻五の富士川合戦譚を材とした研究を行った。よく知られた場面であるが、語り本系諸本と読み本系との間には、表現の特質において大きな差違がある。それは、富士川合戦の前に叙述される、頼朝挙兵譚をどう処理するかという問題に関わっている。長大な挙兵譚を有する読み本系は、その文脈を受けて富士川合戦を描く。その脈絡の中にあった記事が、挙兵譚を欠く語り本系の富士川合戦では本来の意味を失って再利用されている。現存する語り本系諸本の様相は、それらが明らかに読み本系的なものを母体として再編成されてきたものであることを示している。 以上の分析結果は、語り本系と読み本系を分かつ最大の指標である頼朝挙兵譚が、語り本系において後からカットされたことを示しており、『平家物語』諸本論のうえで極めて重要な知見である。 本年度におけるもう一点の研究対象は、『保元物語』であった。『保元物語』諸本の中では第四類本が、『平家物語』の語り本になぞらえられるような、文芸的に優れたものと言われるが、それは古態とされる第一類本と比較して表現が洗練されている、あるいは構成が整っている、といった評価が中心だった。だが、第一類本と第四類本の間には、物語の構造において大きな変化がある。そのことを、源為朝の造型に着目しながら分析し、論文にまとめた。一口に言ってそれは、源氏の歴史を新しく語り直そうとする営為であり、それは前述した『平家物語』や、過去に論じた『平治物語』とも共通性を持つことが予想されるものであり、今後の研究の足がかりとなる成果であった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記『保元物語』に関する成果は、すでに論文化して『岐阜大学国語国文学』誌に発表している。『平家物語』の富士川合戦についての研究は、軍記・語り物研究会大会(於中京大学)において口頭発表しており、その後査読誌『国語と国文学』に投稿し、アクセプトされて掲載が決定している。口頭発表一回、論文執筆二本は、おおむね予定通り、順調な進捗と判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度は『保元物語』のうちで第四類本をとりあげただけだったが、『保元物語』諸本には種類が多いので、分析対象を増やさなければならない。 また、上述した『平家物語』に関する成果は、さらに考究するべき課題を内包しているので、それらについても引き続き検討を行う必要がある。物語の大きな構造の変遷だけでなく、細かな表現、ことばの使い方に関する調査を行うことになる。 これらの予定に加えて、初年度では触れることのできなかった『平治物語』『承久記』までも視野を広げてゆきたいと考えているが、いずれの場合も自身の既発表の論考が土台となる。そうした考察の上で、四作品の流動を総合的に捕らえる視点を構築したい。
|
Causes of Carryover |
今年度論文を発表した『岐阜大学国語国文学』は、抜刷が無料で支給されたため、「その他」において支出を見込んでいた論文抜刷作成が不要となった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度同様に「その他」費用の一部として、複写費や論文抜刷の作成代に充てる予定である。
|