2017 Fiscal Year Research-status Report
文学者の「口語文」観-作家による文章論・古典の現代語訳の史的研究
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16K16760
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
中村 ともえ 静岡大学, 教育学部, 准教授 (70580637)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 作家による現代語訳 / 『源氏物語』 / 谷崎潤一郎 / 山田孝雄 / 玉上琢弥 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究の成果は、以下の三点である。 1 東京大学国語国文学会のシンポジウム「源氏物語―時代を越えて―」の三人のパネリストのうちの一人として登壇し、「作品としての現代語訳―『潤一郎訳源氏物語』とその文体」と題して口頭発表を行った。シンポジウムは、『源氏物語』の中世・近世・近現代における受容について、各時代の文学の研究者が発表するという趣旨で、中世・近世の和歌や国学とは違い、近現代では作家(主に小説家)による現代語訳という形で受容されたことを指摘した。与謝野晶子・円地文子ら各作家の源氏訳はそれぞれに異なる特徴を持つが、発表では特に谷崎潤一郎による最初の現代語訳である『潤一郎訳源氏物語』を取り上げ、校閲者として関わった国学者・山田孝雄の文法論の議論を踏まえ、その文体を分析した。 2 論文「<谷崎源氏>と玉上琢弥の敬語論」を「翻訳の文化/文化の翻訳」13号に発表した。谷崎による最初の現代語訳である『潤一郎訳源氏物語』(「旧訳」)は、戦後に『潤一郎新訳源氏物語』(「新訳」)へと改訳された。その過程で新たに加わったのが、『源氏物語』研究者である玉上琢弥である。玉上の参加が持った意味を「旧訳」から「新訳」への改訳及び「新訳」の改訂に関する資料や関係者の発言を調査・照合することによって考察し、玉上の『源氏物語』の敬語に関する議論と<谷崎源氏>の改訳及び改訂の接点を明らかにした。 3 本研究に一部関連する論文「谷崎潤一郎『聞書抄』論―歴史小説の中の虚構―」を「昭和文学研究」76号に発表した。谷崎は『文章読本』の先駆となる文章論「現代口語文の欠点について」と並行して御伽草子の現代語訳「三人法師」を発表している。論文では、「三人法師」を谷崎の小説及び小説論の中に位置付けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画として予定していたことを複数件、進めることができた。特に、国語学・国文学の学会の『源氏物語』をテーマにしたシンポジウムで、異なる時代の文学を専門とする研究者とともにパネリストとして登壇し発表したことは、質疑応答も含め、意味のあることだった。今後は、この成果を活字化することを目指したい。また、谷崎潤一郎による『源氏物語』現代語訳の「旧訳」から「新訳」への改訳及び「新訳」改訂と、「新訳」から作業に加わった源氏研究者の玉上琢弥の役割についての論文や、谷崎の最初の古典の現代語訳である『三人法師』の位置付けに関連する論文を発表できたことも、成果である。活字化には至っていないが、他の作家の現代語訳に関連する論文も書き進めることができた。一方で、国外での調査及び研究会は、日程があわず実現しなかった。次年度以降に改めて調整したい。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の「今後の推進方策」に、「次年度以降は、小規模の協議の機会を複数回持つ必要がある」と記したが、平成28年度に構築した人的ネットワークをもとに、29年度後半に共同研究者と複数回の打ち合わせを行い、30年度に小規模の研究会を複数回計画することができた。30年度は、この計画にもとづき、研究会を実施し、成果を発表・共有していく予定である。具体的には、9月と3月に東京での研究会の開催を予定している(一回は静岡での開催も検討中)。谷崎潤一郎による『源氏物語』現代語訳に関して、古典文学や比較文学など異なる領域の研究者とともに、特定の巻について、範囲や観点を限定して、密度の濃い議論ができるように、準備を進めている。28年度に韓国で行った学会発表でコメントをいただいた研究者にも参加を呼びかける予定である。これと並行として、29年度に口頭発表した内容や活字化に至っていない論文に関しても、活字化に向けて作業を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
(理由) 国外での学会・研究会に参加できなかったため。 (使用計画) 次年度の旅費として使用する。
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