2018 Fiscal Year Research-status Report
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16K16763
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
野本 瑠美 島根大学, 学術研究院人文社会科学系, 准教授 (40609187)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 和歌文学 / 百首歌 / 奉納和歌 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、奉納和歌が、どのような歴史的経緯を経て生成し定着したかを明らかにすることを目的とする。平成30年度は、(1)奉納和歌の定義に関する検討、(2)同時代の和歌作品との比較研究、(3)奉納和歌に関する基礎的資料の整備についての研究を行う計画であった。 (1)については、従来「法楽」と「奉納」の語が混在し、研究者によって定義が様々であった奉納和歌について、平安期の用例を収集・検討することから、従来の狭義「法楽和歌」「奉納和歌」を括る、「奉納和歌」の概念を提唱し、どのような行為が当事者たちによって「奉納」と見なされていたかを明らかにした。この成果は、単著『中世百首歌の生成』(若草書房、2019年7月刊行予定)第三篇第一章にまとめた。(2)については、平安末期の家集『粟田口別当入道集』『隆房集』の表現分析を進め、家集編纂と自己表現の手法を検討し、それぞれ「源頼政と藤原惟方―『粟田口別当入道集』を中心に―」(中村文編『歌人源頼政とその周辺』青簡舎、2019年3月)、「百首歌としての『隆房集』」(『国文学研究』187、2019年3月)と題した論文で発表した。(3)については、「天神仮託歌集」に関する調査とデータ整理を実施した。奉納と同じ信仰心を土壌として生まれた作品に、神を作者に擬した家集・百首(仮託歌集)の存在が挙げられる。実施者はこれまで、天神に仮託された百首の伝本調査・分析を通して、従来未詳とされてきた天神仮託百首の成立過程の一端を明らかにし、表現分析や他作品との比較等を容易にするための本文データベースの作成に取り組んできた。本年度は、天神仮託百首の和歌について、出典や他出(他資料所見の有無)の情報を追加した。 また、当初は予定していなかったが、天神仮託歌集の序や奥書等から、奉納和歌史に天神仮託歌集を位置づける論考を執筆し終え、次年度公刊する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究期間の3年目にあたる。当初予定していた計画はほぼ遂行できたため、研究はおおむね順調に進展していると判断した。また、最終年度に向けて、本研究課題を総括するような書籍の原稿も執筆し終えた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる次年度は、本研究課題の総括として、成果をとりまとめた書籍(単著)を刊行する。当該書籍では、百首歌という詠作形態に着目し、帝に〈奉る〉歌、神仏に〈奉る〉歌の双方から、中世百首歌の特質に迫る予定である。また、書籍の原稿執筆の際に得られた新たな知見や研究課題(奉納和歌の画期となる10世紀の和歌研究/和歌以外の奉納との関連/崇徳院遺詠と俊成・西行への影響/等)を追求し、さらなる研究の深化に努めたい。 また、前年度に引き続き、「天神仮託歌集」のデータ整理と増補も実施する。「天神仮託歌集」には、天神縁起などに見られる歌などが含まれる一方、天神以外の詠作も混在している。本文データに、出典や他出(他資料所見の有無)の情報を追加しデータの充実をはかる。また、本文データから仮託歌集に頻出する表現を洗い出すことで、どのような表現が「天神らしい」と見なされていたのかを明らかにし、その成果を研究会等で報告したい。
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Causes of Carryover |
当該年度は、資料調査や研究発表のための旅費、データ入力のための謝金としての使用を予定していたが、研究発表ではなく論文の形式で成果を発表したり、別の研究プロジェクトからの旅費の支給等の理由により、当初の予定よりも少ない金額で活動できた。そのため旅費等の一部を次年度に繰り越した。 次年度は、資料収集のための旅費、図書等の資料購入、データ入力作業等の謝金に研究費を使用する予定である。
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