2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K16765
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
多田 蔵人 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 准教授 (70757608)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 永井荷風 / 森鴎外 / 泉鏡花 / 小林秀雄 / 江戸 / 近代文学 / 実朝 / 漢文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は当初の予定通り、学会発表を積極的に行うとともに、文学史の基盤となる資料の紹介につとめた。 まず、学会発表。2017年5月13日、昭和文学会の特集企画「〈現物〉を触る、読む―デジタル時代における〈資料〉の価値―」にて発表「小林秀雄『実朝』論――文献の位相」を行い、小林秀雄の古典論が急成長する文献学のただなかから出現したテクストであり、典拠文献を具体的に指摘した上で、小林が文献との独自の関わり方によって古典像を描き出していることを論じた。2017年10月29日、東アジアと同時代日本語文学フォーラム第5回特集「言語圏とディアスポラ文学」にて「旅・記憶・動作――泉鏡花の文体生成」と題し発表。鏡花『歌行燈』『売食鴨南蛮』などについて江戸戯作・歌舞伎・和文小説などの典拠を指摘しつつ、鏡花小説の近代口語文が、様々な文体が錯綜する場から、次第に古典語の介在しづらい場へと変貌してゆく様を描出した。また2018年3月31日、一九世紀文学研究会にて「森鴎外『舞姫』の文体構成」を発表した。『舞姫』の文体に新国文運動・ドイツ語修辞学・漢文学などの様々な文脈が混在する様を具体的に示した上で、能文家である書き手がそれゆえに破滅に陥ってゆく悲劇として本作を位置づけた。 次に、資料の報告。2017年 9月5日、「読売新聞」に「創作ノートをめぐって 晩年の荷風 推敲で「言葉の実験」」を寄稿。新たに発見された永井荷風晩年の創作ノートについて分析し、報告したものである。同ノートについては更なる詳報を「ゆっくりと引用の痕をたどる」と題して「UP」誌2018年3月号に寄稿、江戸文化の引用が晩年に抑制されていったことの理由を探った。本稿ではさらに、小林秀雄の古典論における白樺派との具体的な関連を指摘している。 このように中世・近世・近代を跨ぎつつ、江戸文化が近代の言葉に及ぼした影響を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初予定以上に多くの研究発表を行い、成果の発表と情報収集に努めることができた。また永井荷風の創作ノートの発見は、江戸趣味の第一人者であった荷風の戦後の創作状況を明らかにしうる資料であり、荷風研究のみならず、本研究課題である、近代文学における江戸文化受容の通史的研究にとっても重要な意味を持つものである。総じて今年度の研究は、次年度の研究を大きく進展させる素地となったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はこれまでに行った全ての研究発表を順次論文化する予定であり、既に依頼等によって掲載決定している論考もある。これとあわせ、荷風のノートについても、戦後文学における江戸文化の介在ぶりを射程に収めた論考を発表したいと考えている。初年度・次年度を含めた研究成果については、書籍としてまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
当該助成金は旅費利用などの残額によって生じた小規模なものであり、次年度の近代文学関連書籍購入費にあてる予定である。
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