2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K16777
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Research Institution | Hijiyama University |
Principal Investigator |
九内 悠水子 比治山大学, 現代文化学部, 准教授 (70726398)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 清水旧蔵資料目録 / 清水文雄書入 / 三島関連書籍 / 三島と保守系雑誌の関わり |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、清水文雄旧蔵資料における書入の実態調査、ならびに習作期作品成立事情の検討であった。 具体的な作業としてまずは、比治山大学蔵「三島由紀夫」文庫における書入実態を把握するため文庫整理、目録作成、書入の調査、書入の翻刻を行った。このうち、翻刻以外の作業はほぼ完了したが、翻刻についてはまだ一部不明な点を残している。 本研究に着手する前の文庫整理の段階で、書籍・雑誌類の中から書簡(松尾聰から清水宛の書簡)や三島の直筆メモ(東文彦の住所を記したもの)等が見つかっていたが、今年度の調査では新たに、清水宛の書簡等2通が見つかった。その一つが二村化学工業創始者、二村冨久から清水へ送られた三島記念館開館にかかる挨拶文である。書簡にはその折の写真も一葉同封されていた。二村は憂国忌発起人でもあった人物である。またのちには青嵐会等の右派団体を経済的に支援したことでも知られる。そんな二村からの清水宛書簡は、第一級資料とは言えないが、没後の三島をめぐる様々な動きの一端を示すものとしての価値はあるだろう。 書入に関しては先述したように、まだ翻刻が終了していないが、主として、重要箇所への傍点・傍線、丸囲みと重要キーワードの抜き出しであった。意外にも三島の小説における書き込みは殆どなく、晩年の評論や、三島に関する評論文等へのものが目立つ。 このほか、この他に着目すべき資料として『生長の家42(3)』(昭和46・3)が挙げられる。ここには清水の長女みをの夫、辻景虎が熱心な信者であり、清水の妻房江も生長の家創始者谷口雅春の講習を受けていたことが記されており、これまで知られていた三島と生長の家のかかわりに加え、清水家との関わりも明らかとなった。以前拙稿において三島と影山正治(『不二』、毛呂清輝(『新勢力』)との関連を指摘したが、改めて三島を巡る保守系誌の分析行う必要があることが今回の調査を通じ分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初から想定されていたことではあったが、独特の書体における書入の翻刻に想定外の時間を取られ、計画していた通りに作業を完了することができなかった。この件に関しては、平成28年10月に刊行された清水明雄編「清水文雄『戦中日記』」(笠間書院)に掲載された日記写真とその翻刻を参考に作業を鋭意進めていくこととする。 また、必要に応じて遺族のご協力を仰ぐことも検討している。また、今年度計画していた習作期作品の成立事情に関する考察は、先に挙げた『戦中日記』との照合によってその意味や意図がより明確に解釈できるとの判断から、29年度も継続して行うこととした。一方で、この『戦中日記』を手掛かりに、平成29年度に計画していた作家「三島由紀夫」の生成過程における考察の一部にすでに着手しており、多少順序は入れ替わったが、研究全体の枠踏みが整った形となった。また、本研究では計画されていないものであるが、今後三島研究をしていく上で重要な幾つかのポイント(三島と保守系誌の関わり)となるべき事柄も見つかった。この件の検討に関しては、本研究終了後に改めて行うこととする。 なお、平成28年度の研究成果を発表することは上記のような事情から見合わせ、29年度に持ち越すこととした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、当初計画通り三島文学における古典の影響、並びに習作期三島文学の生成過程についての考察を行っていく。 前者は、平成28年度の調査を踏まえ、三島の古今・新古今受容にかかる清水との影響関係を軸に研究を進める予定である。三島の古今論は蓮田善明の影響を受けていることは既にこれまでしばしば指摘されてきたが、清水の影響についても考察する必要があると思われる。ことに、学習院で作成されていた「東宮殿下御教育案」における清水の見解が、三島とどのような点で結びついていくのかを明らかにしていきたい。 一方、後者は本研究を統括するテーマでもある。これまでの三島・清水往復書簡に加え、『戦中日記』の記述を詳細に検討しながら、考察を行っていきたい。三島文学における「待つ」といったような受動姿勢、あるいは楯の会のような民兵構想と、清水の戦中の思考との類似性など、これまでの研究で見えてきたことを基に、習作期の三島の生成過程について明らかにしていく予定である。 なお、これらの結果は、論文(ないし学会発表)によって29年度(~翌30年度)に随時公表していくこととする。
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Causes of Carryover |
旅費、謝金費の支出がなかったため。旅費に関しては、研究の進行上まだ、必要ではなかったため、翌年に持ち越すこととした。また、謝金に関しては、貴重な資料を適切に扱うことのできる、大学院生ないし学部生の研究補助費として請求していたが、該当する適切な学生がおらず、研究者単独で行ったため、支出Oとなった。 一方で文庫整理の結果、より保存性に優れた書庫の購入必要が生じたため、物品費の支出が当初予定から大幅に超えた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に実施しなかった調査、並びに三島関連資料の収集のために使用する。また、必要に応じて研究補助学生の謝金としても使用する。
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