2016 Fiscal Year Research-status Report
Dickensの後期小説における男性らしさとその形成への帝国周縁部の役割
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16K16787
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
長谷川 雅世 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 講師 (30423867)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | チャールズ・ディケンズ / 大英帝国 / ジェンダー / 男性らしさ / 後期小説 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はディケンズの『荒涼館』の研究を中心に行い、この小説における大英帝国周縁部の役割、特に医師である男性主人公の男性らしさの形成に、彼の中国とインドへの渡航が如何なる役割を果たしているのかを考察した。この考察のために、小説当時の19世紀半ばのイギリスにおける女性らしさと慈善活動との関係と医者という職業と男性らしさとの関係を調べた。 本年度の前半は『荒涼館』の読解作業とヴィクトリア朝時代の慈善事業や医療活動についての資料収集と読解作業を行った。夏には英国へ渡り、大英図書館で資料収集を行った。本年度の後半は、大英図書館で収集した資料や他の一次文献と二次文献の分析を行い、それらの分析結果を基に『荒涼館』の再解釈を行った。 主な結果としては以下のことが分かった。まずは、女性の慈善活動には、それはヴィクトリア朝のジェンダー・イデオロギーが規定する女性らしさに適う行為で、そのイデオロギーを強化するものであるという見方と、女性らしさの発露を口実にした女性の男性的野心の解放と男性の領域への侵略であるという見方があり、『荒涼館』は後者を表現していること。次は、ヴィクトリア朝の理想の女性像を体現していると解される『荒涼館』の女性主人公には、男性の権威とアイデンティティへの脅威となる可能性があること。最後は、男性主人公の帝国周縁部での経験は、彼をその脅威から守る役割と彼の医療活動にheroismとprofessionalismを与える役割を持っていること。 これらの結果を踏まえて『荒涼館』の論文執筆を始めた。執筆作業は継続中であるが、平成29年度の前半には完了する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
一次文献と二次文献の分析と論証の流れと矛盾を修正するのに時間がかかったため。 今年度は正式な成果発表が行えなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の前半には『荒涼館』の成果発表を行う。その後にディケンズの他の後期小説、特に『大いなる遺産』と『ハード・タイムズ』の分析と考察を行う予定。
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Causes of Carryover |
他の研究費で本研究にも必要な書籍や購入予定であったパソコン等が購入できた。そのために物品費とその他の費用の支出を抑えることができたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
来年度は資料収集のための渡英と成果発表のための学会参加で旅費の支出が増えると思われる。それに使用する予定。
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