2016 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ文学における「ウィルダネス・イデオロギー」の構築と脱構築
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16K16791
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
山本 洋平 明治大学, 理工学部, 専任講師 (40646824)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ウィルダネス / ソロー / メルヴィル / エコクリティシズム / 環境人文学 / 市民的不服従 / 先住民 |
Outline of Annual Research Achievements |
若手研究(B)初年度にあたる2016年度は、概ね当初の予定通りに進めることができた。主たる目的は、19世紀アメリカ文学における「ウィルダネス(wilderness)」関連の資料の収集・分析を行うことであった。その一環として、北米西海岸における実地調査を行い、専門家との交流を行った。研究課題の全体像をつかむことに資する情報を得ることができた。 具体的な研究成果としては、ヘンリー・ソロー(Henry Thoreau)研究について「アメリカン・ルネサンスにおける市民的不服従をめぐって―“Slavery in Massachusetts”を中心に―」と題する研究発表を行った。これは当初の計画における「ソローの市民的不服従と民主主義との関連を、彼の自然思想から逆照射するという課題」に対応するものである。発表では、1850年代に花開くアメリカン・ルネサンスの成立のための重要な要件として、市民的不服従の擁護とそれに対する懐疑を文学史的に位置づけることを試みた。 またハーマン・メルヴィル(Herman Melville)研究にかんしては、論文「バートルビーの眼をとじる―超越主義的ネットワークにおける視覚・身体・他者」でメルヴィルの「バートルビー」を当時の文化的ネットワークから読み解くことを試みた。エマソンからの影響からの脱却に腐心したヘンリー・ソローが、物理的な自然物を参照することで観念の世界からの脱却を図ったと(あえて単純化)するならば、「バートルビー」におけるメルヴィルは、観念性と身体性のせめぎあいを前景化することで、超越主義にたいする強い関心と懐疑の身振りを展開したと指摘した。 当初の計画より遅れている課題として、ソロー『メインの森』論、メルヴィル『タイピー』論があげられる。次年度において集中的に進めることにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
総論にあたる「ウィルダネス」に関する資料収集は順調に進んでいる。また、ソロー研究については、2つの研究課題を目標としていたが、一方は「研究実績の概要」に記した通り、果たされたが、もう一方の課題は継続中である。次年度には『メインの森』(1864)におけるウィルダネス表象とソローが雇った先住民ガイドとの人間関係の距離感との相関関係についての考察を研究成果として公表する予定である。 メルヴィル研究においても同様に、一部の課題を除き、おおむね順調である。超越主義的ネットワークにおけるウィルダネス表象については順調に進展した。他方、当初の計画より遅れている課題として、『タイピー』(1846)研究があげられる。この点については次年度において集中的に進めることにする。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画において「アメリカン・ルネサンスからモダニズムにかけての時代横断的・系譜学的な手法を組み合わせる方法を採用する」としていた点については、難航していたため、6月にウィラ・キャザーについての研究発表をすることで、自らの考えを整理し、専門家から意見を伺うことで、打開策を練ることにする。 ソロー研究については、10月にフランスで開催される国際学会での発表が決定しており、その発表準備を進めることで順調に推進されることが見込まれる。メルヴィル研究についても、専門会の意見を広く聴くことのできる場での発表を計画している。
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