2016 Fiscal Year Research-status Report
19世紀環大西洋交流と「アメリカン・ルネサンス」リバイバル
Project/Area Number |
16K16792
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
貞廣 真紀 明治学院大学, 文学部, 准教授 (80614974)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 環大西洋研究 / メルヴィル / ホイットマン / ソロー / 社会主義 / イギリス世紀末 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アメリカン・ルネサンス期の作家(Melville、Thoreau、Poe、Whitman)が19世紀後半のイギリスでどのように「再発見」され、そして、その「再発見」が1920年代以降に本格化するリバイバルをどのように準備したのか、その背景のダイナミズムを明らかにするものである。Amanda ClaybaughがThe Novel of Purpose: Literature And Social Reform in the Anglo-American World (2006) で論じているように、奴隷解放運動や選挙権の拡張に関わる運動は環大西洋文化交流に重要な役割を果たしたが、南北戦争以降の時期の交流、まだ未熟で政党として確立される以前の社会主義運動とアメリカ作家再評価の関係について、複数の作家を視野に入れた本格的な文化史的研究はまだ十分に行われていない。
本研究では社会的文化的背景(社会改革運動、国際著作権法成立、印刷文化)や従来軽視されてきた英米の批評家の活動(William Michael Rosettiを経由したイギリスでのWhitmanの受容、Edward CarpenterによるWhitman評価、Henry SaltによるMelvilleおよびThoreau再評価)を作品に即して具体的に分析し、南北戦争後の環大西洋空間で構築されたアメリカ文学像を再構成する。その際、特にイギリスで展開された倫理的社会主義(ethical socialism)等の社会改革運動の性質を精査することによって、英米文化の関係をより具体的に記述し、フランスの影響にも言及しながら、英米二国間関係に収まらない複層的な大西洋空間を分析する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フェビアン社会主義やフェローシップオブザニューライフなど、世紀末にイギリスの複数のグループの中で生じた<アメリカン・ルネサンス>作家のリバイバルについての調査・分析を行った。特にEdward Carpenterの倫理的社会主義とWhitman受容の関係 、Henry SaltによるThoreauの再評価の実相 、イギリス社会主義者のMelville初期作品の再評価と作家自身のイギリス読者に対する意識の3点を中心に調査を行った。
世紀末の社会主義運動がBlavatsky夫人を中心とする組織化された神智学や東洋哲学の流行の中で形成されたことを踏まえながら、彼らの掲げた「兄弟愛」の理想の概念を再考し、Whitmanとイギリス社会改革者の間の相互依存関係を確認した。また、Thoreauの作品が1880年代、アメリカのホートン・ミフリン社 によって戦略的に売り出されたのと同時期、イギリスでも社会主義系出版社ウォルター・スコットを通じてリバイバルが開始されたことについて、連動する英米の出版事情とその思想的背景を調査した。
初年度は調査を中心に行ったが、上記の具体的成果としてThe 11th International Melville Society Conferenceにプロポーザルを提出し受理された(発表は2017年6月)。ソローについてはThe 15th Annual Hawaii International Conference on Arts and Humanities で口頭発表を行った(2017年1月)。イギリス社会社会主義のアメリカン・ルネサンスの実相については、2017年5月にナサニエル・ホーソン協会第36回全国大会(2017年5月)のシンポジウムで発表を行ったほか、共著『知のコミュニティ』の分担執筆中(2016年度より継続中)である。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目の研究が非常に順調に進行しているため、2年目も計画通りプロジェクトを進め、成果発表に繋げていく。2年目は、英米の批評交流を通じて形成されるアメリカ像を、フランス文化の影響を踏まえて重層的に考察する。南北戦争後、William Dean Howellsがフランス文化の重要性を強調していることが良い例だが、アメリカの批評家や作家たちは、イギリスと競合しながらアメリカ文学を確立する際、オルタナティブとしてフランスにその根拠を求めた可能性がある。
本研究では、モダニズム作家が「国籍離脱者」(expatriate)として積極的に渡仏する以前の時代、南北戦争後から世紀転換期に英米仏3ヶ国における批評空間がいかに連動し、拮抗しながらアメリカン・ルネサンス作家の再評価を準備していくのか、その過程を分析したい。着眼点は以下の3点(1.Poeのイギリス及びフランスにおける評価とアメリカにおける再評価の連動性について、2. Melville晩年におけるBalzacの影響、3. Whitmanのフレンチ・コネクション)である。Poeの受容史についての調査は他の2点の着眼点の基盤となるが、アメリカの批評家E.C. StedmanによるPoe評価の実相を精査し、20世紀以降の評価との比較も取り入れたい。また、MelvilleとWhitmanとフランスの関係については一次資料が限られているため、背景についての調査を重点的に行う。その際、特にWillam Dean Howellsの批評活動、文学的リアリズムの問題についても考察を行う。
上記の研究の成果について口頭発表を行い、フィードバックをもらいながら論文にまとめていく。
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Causes of Carryover |
明治学院大学の海外発表補助費と併用することが可能になり、大学からも資金援助を受けることができたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年度以降の資料購入費及び学会出張費の補填に用いる。
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Research Products
(3 results)