2017 Fiscal Year Annual Research Report
Does James Joyce Dream of the Nightmare of History? : A Theoretical and Historical Study of Representations of Ghosts in Joyce's Works
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16K16794
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
小林 広直 一橋大学, 大学院法学研究科, 日本学術振興会特別研究員(PD) (60757194)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ジェイムズ・ジョイス / James Joyce / アイルランド / トラウマ / モダニズム / 英米・英語圏文学 / ジークムント・フロイト / 亡霊 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、ジェイムズ・ジョイスの実質的なデビュー作である短篇「姉妹たち」について、口頭発表と論文化を行った。 本作が雑誌掲載時から数度の改稿を経て、のちに短篇集『ダブリナーズ』(1914)の冒頭を飾るまでの変遷を追うことによって、「亡霊」的存在である「灰色の顔」がモチーフとして付け加えられたこと、さらには死んだ神父の微笑みと笑いがフロイトが言うところの「不気味なもの」として主人公に取り憑いていることを検証した。これまでも作品に登場する死んだ神父に亡霊性を見出す先行研究は存在したが、本研究は、ジークムント・フロイトやジャン・リュック・ジリボンの理論を援用しつつ、神父の「不気味な」笑いと微笑みを時系列的に再検証することで、なぜ神父は少年の夢に取り憑くのか、そしてこの出来事を大人になった語り手の少年はなぜ「事後的に」回想するのかという謎の解明を試みた。すなわち、ジョイスは自身にも取り憑いていたカトリシズムの言説と対峙するために、神父の不気味な微笑みやその死体を見る経験が少年の脳裏に取り憑くことを描くと同時に、そこから逃れようとする語り手の姿をも描くことで、作者は宗教というイデオロギーに対して抵抗を試みたのである。 本研究によって、研究代表者が博士論文において研究しているジョイス作品における「亡霊表象」の諸問題が、作家のデビュー作から一貫して見られることが明らかになった。 以上の成果は、新英米文学会第48回大会での口頭発表を経て、早稲田大学英文学会『英文学』第104号(2018年3月)に掲載された。
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Research Products
(2 results)