2017 Fiscal Year Research-status Report
核時代におけるディストピア文学の想像力と戦争表象の研究
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16K16796
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Research Institution | Yonezawa women's junior college |
Principal Investigator |
小林 亜希 山形県立米沢女子短期大学, 英語英文学科, 准教授 (80711366)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | イギリス文学 / 戦争表象 / 想像力 / ディストピア |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は前年度に行った日本英文学会東北支部での口頭発表の成果を日本英文学会のプロシーディングスに発表し、その後、核時代の戦争表象という観点からWilliam Golding の Free Fall(1959)を分析した論文「〈告白〉の不可能性-Free Fall(1959)における回想の構造」を山形県立米沢女子短期大学紀要第53号にて発表した。以上の成果を通じて、第二次世界大戦におけるイギリスの〈加害性〉を隠蔽/抑圧することによって生じた集団的トラウマが、核時代の虚構物語に通底している可能性を改めて確認することができた。特に、核時代の文学テクストにおいては、個人の〈加害性〉の経験が抑圧されるだけでなく、別なものに〈置換〉されて表象されることが少なからず見受けられる。拙論では、回想物語が語り手による自己正当化とも言える〈告白〉の不可能性と分かち難く結びついていることを指摘する一方で、第二次世界大戦以降のイギリスが隠蔽した加害責任という「傷=トラウマ」を核時代にまで引きずったテクストとしてFree Fallを論じることができた。また、文学テクストで描かれる個人的な記憶は、国民や国家には還元できないある種の「集団的記憶」(Whitehead, 2009) に接続されるように思われる。今後は他のテクストにおいても「加害性」と「記憶」をめぐる同様の現象を分析し、論文を執筆する予定である。本年度は国内図書館での資料調査とテクスト分析によって調査範囲がより明確になったため、次年度のリサーチへつなげていきたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は論文を発表することができた一方、体調不良により海外出張することができなかったため、調査は国内図書館(東京大学附属図書館)のみに留まり、予定していた広範な調査を行うことができなかった。次年度は国外図書館(イギリス)での資料調査を予定しているため、その成果を踏まえて、論文を執筆する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果を敷衍し、国外図書館(イギリス)での資料調査を行ったうえで、成果を論文として発表する予定である。また、今後はWilliam Goldingを起点にしつつも、John WyndhamやNevil S huteといったSF小説、1950年代の映画にも調査範囲を広げていけるよう方策を推進中であるが、今年度が本研究の最終年度にあたるため、論文の執筆にあたっては対象とするテクストをある程度限定した上で議論をまとめていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
今年度、体調不良のため実施できなかったイギリスでの資料調査を実施する必要があるため。イギリスの大学図書館および帝国戦争博物館に出張し、未着手であった核時代の作家たちの未発表原稿、同時代の批評、戦争表象について資料調査することで、より広範な研究を行う予定である。出張時期は9月を予定している。
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