2017 Fiscal Year Research-status Report
クィアとエコロジーの交錯と北米のマイノリティ女性作家たち
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16K16797
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Research Institution | Matsue National College of Technology |
Principal Investigator |
早水 英美 (岸野英美) 松江工業高等専門学校, 人文科学科, 准教授 (90512252)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 女性の連携 / セクシュアリティ / アジア系女性作家 / Madeleine Thien / 異文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、Greta GaardやNicole Seymourのクィアとエコロジーに関する理論の有効性を検討し、理解を深めた。また日系のOzekiとGotoを中心とするマイノリティ作家の作品を分析した。研究成果は以下3点に集約される。 (1)前年度に引き続きOzekiのMy Year of Meatsに関する論文を改稿し、図書で発表した。この中で、本作品に登場する環境ホルモンの問題を指摘する人種的マイノリティの同性愛者カップルと主人公との交流がクィア・エコフェミニズム論に繋がることと、Ozekiは強固な女性たちの連携を描くことによって多様な人間と自然の共存を希求していることを明らかにした。 (2)社会や性の規範に対するGotoの考えや立場を処女作Chorus of Mushroomsに探った。本作品には自然が女性同士の繋がりに介在していることが暗示される場面が含まれており、これはOzekiの作品と同じくクィア・エコフェミニズム論に通じると言える。後にGotoが自らクィア作家と公表していくことからも、Gotoは本処女作の執筆時から女性同士の連携や自然とのかかわりに関心を持っていたとみられる。以上を含む発表を国際会議で行い、論文として学術雑誌に発表した。 (3)マレーシアと中国にルーツを持つカナダ人女性作家Madeleine Thien氏を日本へ招聘した。研究代表者が所属する日本カナダ文学会の年次大会ではThien氏の特別講演の企画と実施に関わり、司会を務めた。さらにインタビューを行い、代表作Do Not Say We Have Nothingの歴史的背景や女性の問題、性的マイノリティと人権についてThien氏の考えを伺った。これはカナダの多文化状況やマイノリティ、特にアジア系女性作家の性に関する意識を探る上で大変参考となった。この一部は学術雑誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、研究計画書に示した通り、平成28年度に収集したクィアとエコロジーに関連するエコクリティシズムの資料の整理と分析を引き続き行い、作品考察を進めた。GotoのHalf Worldの翻訳書は平成29年度中に出版できなかったが、最終的に1冊の共著出版、英語による1件の研究発表、2本の論文等執筆と成果を公表する多くの機会を得ることができた。また北米マイノリティ女性作家の研究を進める中で、カナダ文学ご専門の佐藤アヤ子明治学院大学名誉教授・特任教授(日本カナダ文学会会長・日本ペンクラブ常任理事)から多くのご助言をいただいた。佐藤名誉教授のご紹介を通して、マレーシアの華人である父と香港生まれの母を持つカナダ人作家Madeleine Thien氏を日本に招くこともできた。Thien氏はカナダ総督文学賞とスコシアバンク・ギラー賞を受賞し、ブッカー賞の最終候補にも残った作家である。このようにカナダ国内外で高い評価を集めるカナダ人作家と著名なカナダ文学者からマイノリティ女性文学について貴重な知見を得ることができたことは大きな成果と言えるだろう。以上より本研究課題の進捗状況は概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、最終年度としてGotoの作品研究をさらに進め、その成果を学会や論文で発表していく。主にGotoのセクシュアリティと自然観が反映されているとみられるKappa Childを扱う。一方でアフリカ系のAudre LordeやチカーナのAnna Castilloの作品を解読し、作品の中で人種、性、環境をめぐる問題がどのように絡み合っているかを考察する予定である。また8月にはエコクリティシズム研究学会年次大会において文化の相互交流の観点から、本研究課題に関連するシンポジウムを組むことが決まっている。研究代表者は台湾のエコクリティークSerena Chou氏を本学会にお招きし、シンポジウムで発表を行うことになっている。さらに海外での研究発表あるいは現地調査も行う予定である。
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Causes of Carryover |
平成30年度は、平成29年度に余った物品費とその他の経費未使用額と合わせ、海外から研究者を招聘するために要する旅費にあてる予定である。
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