2017 Fiscal Year Research-status Report
作者性の諸相―中世ドイツ英雄叙事詩における歴史性と虚構性の問題
Project/Area Number |
16K16803
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
山本 潤 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (50613098)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ドイツ中世文学 / 歴史意識 / 作者性 / 英雄叙事詩 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度は中世盛期における英雄伝承素材の書記文芸化の魁である『ニーベルンゲンの歌』および『ニーベルンゲンの哀歌』を対象に、両叙事詩の成立背景として、聖職者による世俗の歴史伝承の救済史的構造への統合の意図があったという論を提示したが、本年度はブルガリア・ソフィア大学での国際シンポジウム"Creation and Destruction of the World"において"Memory and Oblivion. Apocalyptic Structure Formed in Nibelungen-Book"と題した口頭発表を行い、その成果を発信した。また、前年度の口頭発表をもとに、ドイツ中世英雄叙事詩が、19世紀以降の受容においてドイツ/オーストリアの歴史意識に与えた影響を、オーストリアでの中世研究史の観点から分析し、論文「オーストリアにおける「ドイツ国民叙事詩」研究―『ニーベルンゲンの歌』の「オーストリア性」(日本独文学会研究叢書126号「『人殺しと気狂いたち』の饗宴あるいは戦後オーストリア文学の深層」、10-26頁、2017年)」として公表した。 さらに、本年度は中世後期に英雄伝承が持っていた歴史性に関する考察を行うため、歴史的ディートリヒ叙事詩『ディートリヒの逃亡』および『ラヴェンナの戦い』、そして15世紀以降に制作された英雄詩のアンソロジーである英雄本に収録されている、通称「英雄本散文」と呼ばれる、ドイツ語圏の英雄たちの系譜を叙述しているテクストの分析に着手した。目下、これらのテクストに見られる歴史意識と語り手の作者性という主題を中心に据えて研究を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、これまでの研究成果を複数アウトプットできたことが大きな収穫であった。また、今後の研究の中心の一つとなる「英雄本散文」の研究基盤を整えるため、夏期および冬期にオーストリア・ウィーンのオーストリア国立図書館およびドイツ・ミュンヘンのバイエルン州立図書館・ミュンヘン大学中世学科図書館を訪問し、写本調査(前年度に引き続いて『ディートリヒの逃亡』と『ラヴェンナの戦い』を収録するCod.2779および『オルトニート』と『ヴォルフディートリヒ』を収録するCod.15478)を閲覧)と合わせ、「英雄本散文」に関するものを中心に国内には存在していない文献を収集することができた。 また、平成29年度ないし30年度に開催を予定しているコロキウムに招聘予定の研究者と面会し、具体的なコロキウムの計画について意見交換を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は本研究の最終年度となるため、年度後半にこれまでの研究成果を総括し、それに関して意見交換および討論を行うために、ドイツおよび国内から研究者を招聘し、コロキウムを開催する。その際に、コロキウムの主題としては英雄文芸における作者性と匿名性および歴史性を主として取り上げる予定である。具体的には、英雄素材を扱う文芸における作者性/匿名性の通時的な変遷や、その作者性が作品の持つ歴史性に与える影響についての分析を、ニーベルンゲン叙事詩および歴史的ディートリヒ叙事詩、『オルトニート』および『ヴォルフディートリヒ』において行う。また、文献収集や写本閲覧、招聘研究者との打ち合わせのために夏期に10日間ほどの渡欧を予定している
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Causes of Carryover |
(理由) 当初コロキウムの開催を平成29年度ないしは30年度と予定しており、それが平成30年度と決まったため、本年度は旅費および文献購入費のみを使用し、コロキウム開催のための費用を平成30年度に持ち越すこととした。 (使用計画) 最終年度使用可能額の範囲内で中世研究者をコロキウムに追加招聘する予定である。
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Research Products
(3 results)