2018 Fiscal Year Research-status Report
自然主義文学のアダプテーション:「予告」と「布石」による語りの戦略
Project/Area Number |
16K16805
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Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
中村 翠 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 講師 (00706301)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | アダプテーション / 仏文学 / 自然主義文学 / 予告 / 布石 / ゾラ / 翻案 / ミルボー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の内容は、読者の関心を惹きつけるため文学作品において用いられている語りの手法が、他の芸術ジャンルにアダプテーション(翻案)されるとき、どのように再構築されているかを考察することである。とくに、初読に効果的な予告、再読を促す布石といった手法が、翻案化の際、そのジャンル特有の表現形態や鑑賞形態に即して変化することを究明する。 三年目の研究成果としては、以前より投稿していた論文「Destin des personnages secondaires du roman au theatre ; L'exemple de la reine Pomare dans "Nana"」が論文集『Lire Zola au XXIe siecle』(Classiques Garnier社)に掲載され、出版された。この論文では、ウィリアム・ビュスナクによって舞台化されたエミール・ゾラの小説『ナナ』の台本をとりあげ、ゾラ自身がこのアダプテーション作品への協力を否定していたにも関わらず、実際には大きく関与していたことを書簡等の資料調査から突き止めた。また、この作家自身の協力により、小説中に用いられていた予告・布石の手法が翻案にあたって大きく改変され、それにともなって受容される物語の性質までもが変化したことがわかった。 以上より、アダプテーションにおけるこうした語りの手法の再構築が、鑑賞者へ及ぼす効果を狙った形式上の変化であるとともに、物語内容の根幹をも変化させることを解き明かした。 なお、本年度は研究計画に変更が生じ、それにともなった形での研究成果が発表されたので、それについては後述する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
最終年となるべき平成30年度の研究計画では、当初、本務校の長期休業期間を利用して渡仏し、作家、舞台演出家、映画監督等の草稿・書簡資料を調査することにより、生成研究のアプローチと組み合わせてジャンル比較の集大成を行う予定であった。しかし体調の変化により、予定していた渡仏が実行できず、研究計画の変更を余儀なくされた。したがって研究期間の延長申請をおこない、次の年度にかけて変更された計画を続行することとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
変更後の新しい研究計画では、草稿・書簡資料等による生成研究のアプローチは渡仏が必要となるため、メインに実行することをやめ、本研究課題を企画した当初、将来的に構想していた、より広範なコーパスにおける当該テーマの分析を取り入れることにした。すなわち、フランスの自然主義文学だけでなく、その周辺の国や時代の文学作品においてアダプテーションと語りの手法の問題を取り扱うことにより、本研究課題の汎用性を探るというものである。 その研究計画の初めの試みとして、世界文学会関西支部研究会にて「ホフマン『砂男』のアダプテーション」を発表した。この研究発表では、ドイツ文学者ホフマンによる『砂男』がオペラに翻案された際、布石と思われる語りの手法がいかにして初見者にも効果を発揮するかを考察した。
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Causes of Carryover |
前述のとおり、体調の変化によって当初予定していた海外での資料調査を実行することができなかった。したがって変更後の新たな研究計画にもとづいて、延長期間中に国内での研究発表、および論文執筆を進める。それにともない、旅費、および論文執筆に関わるプリンター機器等に助成金を使用する予定である。
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Research Products
(2 results)