2016 Fiscal Year Research-status Report
19世紀末から20世紀初頭におけるエゴチズムの系譜-バレスとプルーストを中心に
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16K16808
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
鈴木 隆美 福岡大学, 人文学部, 准教授 (20631948)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | プルースト / バレス / エゴチズム |
Outline of Annual Research Achievements |
プルーストの決定稿、草稿に関して、エゴチズムの問題系がいかに展開しているのかを調査した。またメッス市立図書館、フランス国立図書館等で、バレスの残したテクスト、書簡にあって、いかにエゴチズムの問題が生まれ、発展していったのかを調査し、先行研究を参考に問題系を整理した。また『精霊の息吹』の舞台であるシオンの丘に実際に足を運び、現地で教会関連の資料を収集できたのは大きな成果であった。そのような作業に基づき、同年に出版されたモーリス・バレスの『精霊の息吹』と『失われた時を求めて』の第1巻「スワン家の方」に焦点を絞り、「自我」「イデア」「現実」「信念」「信仰」「真実」といったキーワードが二つのテクストの中でいかに使われているかを比較検討した。そこから、エゴチズムの系譜としてバレスとプルーストの二つの作品を捉え分析し、その成果を「『精霊の息吹』と「スワン家の方」ーエゴチズムの系譜」というフランス語論文にまとめた。プルーストの教会やコンブレーの風景とバレスのそれの共通点と差異を分析することから、バレスからプルーストにかけてエゴチズムの展開のあり方を浮き彫りにすることが可能であることが分かったのは大きな収穫であった。またキリスト教信仰の表象、そこからの距離の取り方についても両者の共通点と差異が明確になったのは、研究を進めるうえで非常に重要な進歩であった。またこれは論文の形ではまだ発表するに至ってはいないが、プルースト美学の基礎概念の一つである「信念」に、バレスのエゴチズムの影響が強く認められることが、方向性として見えてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
バレスからプルーストにあって、いかにエゴチズムの問題が展開していくのか、という問題について、一定の研究成果が得られた。当初の予定ほど、草稿、書簡を含めたテクストの網羅的な調査は進んではいないが、問題系の整理、という意味では大きな進歩があった。今年度以降もテクストの網羅的な調査を続けていく予定である。 しかしながらバレスのエゴチズムの複雑さ、作品ごとの変遷についてはさらなる詳細な分析が必要であることが分かってきた。従来の研究ではあまり触れられることがなかったが、プルーストとの比較を通じて見通しを立ててみると、バレスのエゴチズムの特徴がより鮮明に浮かび上がることが分かった。その意味で、『精霊の息吹』がバレスのエゴチズムの展開にあって、一つのターニングポイントとなることが判明したのは大きな成果であったが、この点についてはバレス、プルースト双方の先行研究をより精密に読解し、個々のエゴチズムの分析の精度を上げていく必要がある。当初の予定よりも、よりこの作業に力を注ぐべきであることが予想される。とはいえ、研究計画を大幅に変更する必要も特に認められない。このようなことから、研究は概ね順調に推移していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
バレスのエゴチズムの複雑さ、作品ごとの変遷についてはさらなる詳細な分析が必要であることが分かったので、この点についてはバレス、プルースト双方の先行研究をより精密に読解し、分析の精度を上げていく必要がある。初期の自我三部作、国民的エネルギー三部作とそれ以外のテクストについて、エゴチズムのニュアンスの違いにより意識的になり、読解を進めていく必要があるだろう。そのような観点から書簡、日記などを含めた網羅的な調査をやり直し、掘り下げていく予定である。またプルーストの最新の研究成果にあって、エゴチズムの問題がいかに取り扱われているのかを、詳しく調査することにも力を注ぐ予定である。特にリュック・フレースが『プルーストにおける哲学的折衷主義』において展開した問題系を、エゴチズムとの関連で批判的に読み直す、という作業にも着手することを予定している。 このような点に注意しつつ、引き続きプルーストとバレスをエゴチズムの系譜という観点から読みなおす作業を進めていく予定である。
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