2018 Fiscal Year Research-status Report
19世紀末から20世紀初頭におけるエゴチズムの系譜-バレスとプルーストを中心に
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16K16808
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
鈴木 隆美 福岡大学, 人文学部, 准教授 (20631948)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | プルースト / バレス / イデアリスム / 魂 / 真理 / 主体 / 自我 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、今までの研究をさらに広く歴史的な観点から捉え直す作業に従事した。特に19世紀後半に流行したイデアリスムとの関係でバレスからプルーストに至るエゴチズムの系譜を捉えることを試みた。特に哲学の領域における19世紀フランス・イデアリスムについて、関連資料にあたり知見を深めた。具体的には、ショーペンハウアー哲学の直接的、間接的な影響の元、独自のやり方で個々のイデアルなものを求めていった作家群、ユイスマンス、バレス、ジッド、ヴァレリー、ノワイユ夫人などのテクストを広く調査した。個々の作家の中で、いかに「魂」「イデア」「理想」「現実」「真理」「信仰」といったキーワードと「自我」が結び付けられて語られているのか、先行研究に目配りをしつつ各々の場合について整理を進めた。そのような作業から、個々の作家が、フランスに輸入されたドイツ観念論、ショーペンハウアーの哲学からどのように距離をとって、自らの自我理論を構想しているのか、ということをできる限り調査した。また当時の哲学的言説一般についても、主に雑誌媒体を中心として、長期休暇中でのフランスの国立図書館での作業を通じて、可能な限り調査を行った。その上で、当時紹介されていたドイツ観念論経由のエゴについての言説と、バレス、プルーストのエゴ理論を比較検討する作業に着手した。その成果の一部をもとに、論文「La methode de la litterature compaee」を執筆している。また研究成果の一部を一般読者向けに分かりやすく解説した書物を、光文社新書より『主体の系譜ー日仏哲学比較』(仮題)として出版することも決定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究を進めるにつれて、当初予定していた建築と音楽のイメージ比較と同じ程度、身体の問題系が重要であることが見えてきた。特に舞踏と建築、舞踏と音楽のイメージの重なりが、バレスからプルーストに至る、エゴチズムの系譜を浮き彫りにするのに、有効であることが確認できた。そのため、エゴチズム関連の資料で、身体論、舞踏論関連のテクストを渉猟する必要が生じ、そちらの方向でも研究を進めることになった。この点は当初の予定ではなかった方向性であるが、研究課題をより深くとらえるために必要な観点であった。とはいえ、研究計画全体に決定的な変更を強いるものでもない。また作家に影響を与えたと思われる哲学的ディスクールについても、調査は進んでいる。特にイデアリスムの時代風潮の把握は、大いに進展したとの感を抱いている。したがって、本研究はおおむね研究計画通りに順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、さらに包括的な視点から19世紀末から20世紀初頭にかけてのエゴチズムの展開を追っていくことになる。特に、最終年度は後期からのサバチカルを利用し、フランスその他海外での研究を遂行する予定である。以降の研究では、従来のフランス文学、哲学研究の枠を多少はみだし、舞踏論、舞踏理論の領域でもより詳しく調査し研究を進める予定である。したがって最終的に、本研究の成果は、フランス文学研究、哲学研究のみならず、舞踏学にも寄与するものとなるであろう。そのような観点から、特に最終年度後期からは、今までの研究成果を一冊の書物にまとめる作業が中心となることが予想される。
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