2016 Fiscal Year Research-status Report
用法基盤モデルによる語彙と構文知識の習得に関する研究
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16K16821
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
鈴木 陽子 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 講師 (10735848)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 用法基盤モデル / 言語習得 / 語彙習得 / 動詞 / 構文理論 / コーパス / 談話 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、英語と日本語を母語とする子どもの動詞の語彙知識と構文知識の習得プロセスを理論的かつ実証的に探求することを目的としている。本研究の具体的な研究課題は、(1)言語使用における非対称性、動詞と構文の習得過程の記述、(2)誤用分析、(3)語彙と構文知識の習得がどのように関連し合っているかそのメカニズムの解明、の3つである。 初年度である平成28年度には、本研究が扱う問題の理論的背景を整理し、問題の所在をより明確なものにするため、関連図書やジャーナル論文を参照し、先行文献や理論的背景の整理を行った。そして、養育者と子どもの自然発話データベースCHILDESから10の日本語データと2つの英語データを対象に、英語と日本語それぞれについて、養育者と子どもが高頻度で使用している動詞のリストを作成した。そのリストのなかから最も頻度の高い10の動詞を選出し、それらの動詞を対象に養育者と子どもの発話を抽出し、それぞれの発話でどのような構文が使用されているか、その構文がどのような発話機能を持っているかについてコーディングを行った。データの抽出には、解析プログラムCLANやAntConc、Casual Concなどのコンコーダンサ(コーパス分析ソフトウェア)を用いた。 続いて、研究課題1の調査と分析を行うため、動詞が依拠する構文の分布について分析を行った。その結果、依拠する構文の種類は動詞によってばらつきがあることを確認した。個々の動詞は、言語形式としては同様の活用形の種類を持っているにも関わらず、実際の言語使用のなかでは特定の構文に依拠して使用されていることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、先行文献や理論的背景の整理とデータの抽出とコーディングを進め、研究課題1(言語使用における動詞語彙・構文の非対称性の分析、習得過程の記述)の分析を進めた。日本語の動詞については、頻繁に使用される構文が動詞ごとに異なっており、言語使用における構文の非対称性を確認することができた。動詞が生起する構文が子どもの発達と共に変化し、複雑化していく様を記述し、子どもの動詞および構文の発達過程をより立体的に理解することができた。英語の動詞については、すべての事例のコーディングが完了していないため、さらに分析を進める必要があるが、これらの作業によって次年度の実施予定の「誤用分析」に向けた下準備が完了したことになる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度には、研究課題2(子どもの誤用の分析)に取り組む。昨年度に抽出した分析データを対象に、動詞の使用における子どもの誤用の事例を集め、語彙知識と構文知識の二つの観点から「どの部分に誤りがあり」、「何については誤っていないのか」について分析を行う。それぞれの誤用について語彙選択における誤りなのか、構文選択における誤りであるのかを特定し、語彙の習得と構文の習得の関連性(研究項目3)について仮説を立てる。 平成30年度には、研究課題1と2で得られた結果を踏まえ、語彙知識の習得と構文知識の習得のプロセスがどのような順序であるいはどのように重なり連携しながら発達していくと考えられるか、理論的かつ実証的に分析を行い、最終成果の報告に向けて準備を進める。
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Causes of Carryover |
当初の予定通りデータの抽出やコーディング、研究課題1(言語使用における非対称性、動詞と構文の修得過程の記述)の分析を進めることができたものの、得られた特徴を整理していくなかで個別の動詞の特徴に特化した分析を行う必要が生じたため、今年度中に成果報告の機会を得ることができなかった。当初成果報告のために計画していた国内・国外での学会発表は次年度以降に行うことになり、使用計画に変更が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
分析が完了していない研究課題1の分析をまとめ、成果報告を行う機会を得る。また、平成29年度には研究課題2(子どもの誤用の分析)に取り組む予定であるが、誤用をコーディングする際には、研究協力者を募り、評価者間信頼性測定を実施する。
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