2016 Fiscal Year Research-status Report
ダイクシスに関する言語学的研究―対照研究、歴史研究、方言研究の観点から―
Project/Area Number |
16K16845
|
Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
澤田 淳 青山学院大学, 文学部, 准教授 (80589804)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | ダイクシス / 直示 / 対照研究 / 日本語史 / 方言 / 語用論 / 談話文法 / 視点 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、対照研究、歴史研究、方言研究を統合した総合的なダイクシス研究を行うことである。具体的には、直示述語、指示詞、敬語をはじめとする日本語ダイクシスの(歴史的)現象を、他言語や方言との対照から相対化し、言語学的に有意義な一般化を提示することを目的としている。本年度の研究実績の概要は次の通りである。 1.以前より進めてきた直示移動動詞「行く/来る」の歴史について、他言語(英語、韓国語、中国語、等)、及び、現代日本語方言(出雲方言)との比較を含めつつ、より精緻な考察を行った。古代日本語の「来」は、話し手領域への移動(第Ⅰ種直示用法)のみならず、聞き手領域への話し手の移動(第Ⅱ種直示用法)、さらには、(上代では)第三者領域への話し手の移動(非直示用法)をも表し得たが、その後の中央の歴史において、話し手による第三者領域や聞き手領域への移動に対して「来」は使われなくなり、現代共通日本語に見られるような視点制約を確立させるに至ったことなどを明らかにした。 2.社会的ダイクシス表現の1つである卑罵語について、歴史語用論的な観点から考察を行った。特に、近世期以降発達した卑罵語「~あがる(やがる)」に焦点を当て、「~あがる(やがる)」が卑罵用法を獲得するプロセスを「推意」の観点から論じた。また、出雲方言の卑罵語「~さがる」との比較対照を行い、現代共通語の「~やがる」が出雲方言の「~さがる」に比べ文法化が進んでおり、両者の使用範囲に相違が認められる点を論じた。 3.日本語及び他言語の指示詞について考察を行った。現場指示に関しては、「聞き手の視点・注意」といった語用論的要因が現場指示詞の選択・運用にどの程度影響を与えているのかについて調査・分析を行った。文脈指示については、ソ系の「間接照応」に対して新たな説明を試みた。記憶指示については、特に「モーダル用法」について考察を深めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本申請課題の目的である対照研究、歴史研究、方言研究を統合した総合的なダイクシス研究を進めることができている。また、直示移動動詞、指示詞、敬語といった典型的なダイクシス表現以外にも、卑罵語のような従来ダイクシスの枠内で論じられることの少なかった言語表現も射程に含めたことで、研究内容に広がりが出ている。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度以降、敬語、授与動詞(「やる/くれる」)、人称表現(特に、親族名称の子供中心的用法)、指示詞(特に、モーダル用法)などについて考察を深めていきたい。モーダル指示詞については、情報構造や驚嘆性(mirativity)、言語対照といった観点から、現在、澤田治氏(三重大学)と共同で調査・分析を進めており、次年度の論文化を目指している。授与動詞の歴史については、先行研究の整理・検討、用例の収集・分析を進めており、出雲方言や他言語との対照を含めて、考察をさらに深めていく予定である。出雲方言のダイクシスについても、歴史研究の知見も踏まえながら、調査・分析を進めていきたいと考えている。
|