2016 Fiscal Year Research-status Report
口承文芸と日常言語の地域差・地域性解明のための談話論的・表現法的研究
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16K16847
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Research Institution | Ferris University |
Principal Investigator |
椎名 渉子 フェリス女学院大学, 大学共同利用機関等の部局等, 講師 (70765685)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 日本語学 / 方言 / 地域差 / 談話論 / 表現法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、子守歌詞章や日常言語における語・表現・テクストについての地域性・多様性を明らかにし、日常言語と口承文芸との関わりを探るものである。 当該年度においては、口承文芸の一つである子守歌を取り上げ、その詞章(歌詞)に用いられる語・表現の地理的分布を検証することを計画した。 その際、具体的には次の(1)~(3)について明らかにしたいと考えた。(1)子守歌詞章における「ネンネンネンネン」という就寝の指示を意味するあやしことばの観察、(2)育児語形の語構成パターンから地域差を明らかにするためのデータ整理と全国分布図の作成、(3)両者の比較と、それぞれから見られる地理的タイプ(周圏分布タイプ・東西差タイプ)の整理によって、口承文芸と日常言語の残存パターンの傾向を考察する。 このうち、(1)についてはあやしことばに関する論文をまとめ、周圏分布タイプを示すという傾向を見出すことができた。また、子守歌詞章におけるそのほかの表現においては、子どもをほめる表現とけなす表現を取り上げ、それらにはどのようなバリエーションが見られ、どのような地域差が見られるのかを明らかにし、論文にまとめた。 また、(2)については、育児語形の全国分布図を作成するための準備として、研究実施計画にも述べたように育児語の諸辞典をデータベース化し、分析可能な状態に整理する作業を行った。このように、(1)~(3)の作業のうち、(1)と(2)までは行うことができた。(3)の分析には至らなかったため、これから論文化作業を行っていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
28年度における研究計画として掲げた(1)子守歌詞章の地理的分布を論文化、(2)育児語関連のデータ入力作業と整理、(3)両者の比較分析、という3つのプランのうち、(1)(2)については比較的順調に進んでおり計画通りといえる。子守歌詞章における語・表現を取り上げた地理的分布に関する論文執筆も行い、口承文芸の観点からの分析をある程度は蓄積できたと考えるからである。 しかし、(3)についてが未分析となった。本来の計画においては、口承文芸の言語的側面における地理的分布と、実際の言語行動における地理的分布とを比較し論文としてまとめあげる予定でいた。本研究においては(3)の考察が今後の展開に大きく関わる部分のため、進捗状況として「やや遅れている」とした。 (3)が遅れた理由としては、データ整理済みの育児語の分析が完了していないためである。データの分析の前にデータ収集とその入力作業が必須となる。分析のためのデータの入力・整理に予想以上の時間を要したため、分析までには至らなかった。データを分析の観点に沿ってさらに分類・分析したうえで、子守歌詞章の対象となる語と比較が可能になる。今後はまず、それを優先して行っていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の進め方として、大きくは、「データ分析」、「結果の比較」、「言語行動に関する調査の足固め」という三つの柱を立てて進めていきたいと考える。 まず、「データ分析」についてであるが、入力・整理した育児語データの分析に取り組みたい。具体的には、育児語の出自・用法の観点から分類する。『育児語彙の開く世界』(友定賢治,2005年,和泉書院)の分類に倣い、出自による分類では「オノマトペ由来」と「成人語由来」に分類したうえで、各類の語構成が反復をとるか、非反復をとるかで細分類する。また、用法による分類では、「名詞的」と「動詞的」に分類したうえで、各類の語構成が反復をとるか、非反復をとるかで細分類する。これらを地域別に行うことで傾向がでるのかどうかをまずは確認したい。そうした、育児語全般の地域差を網羅的に観察したものはこれまでにないため、育児語としての地域的傾向を掴むことができると考える。 そのうえで、「結果の比較」を行う。これは、これまで明らかにしてきた口承文芸(子守歌詞章)の言語的側面の地理的分布と対照させながら分布の相違を捉えていくということである。 また、「言語行動に関する調査の足固め」に関しては、実際の育児場面の言語行動の調査を行うにあたりパイロット調査を行いたいと考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、資料整理の人件費・謝金に確保した分について、当初の計画から少し変更したためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
使用計画としては、現在の段階では資料整理の人件費・謝金、図書購入、調査のための下準備(パイロット調査のための関西旅費、印刷代など)を考えている。
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