2020 Fiscal Year Research-status Report
Identityの構築の軌跡と語用論的第二言語運用の変容:長期留学を通して
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16K16893
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
野上 陽子 関西学院大学, 法学部, 准教授 (90733999)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | identity / ELF / interactional approach / narrative approach |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、まずインタビューデータとインタラクションデータの逐語録の作成を完了した。その後インタラクションのデータ分析と会話参加者の事後インタビューの内容分析を進め、国際共通語としての英語(ELF)の視点より、インタラクション中に話者それぞれがどのようにidentityの交渉を行っているかについての調査を継続した。昨年度までの研究分析過程から、「ELF使用者の言語や他文化に対する態度を明らかにする」必要性が課題としてみえてきたため、それに関連づけ、下記の1-3の研究課題を立てた上で、文献研究で得た新たな視点を取り込みながらデータ分析を進めてきた。 1. ことばの相互行為のなかでどのようにELF話者のアイデンティティが形成され、また変容するのか。 2. ELFコミュニケーションがより広範な社会的・文化的構造をどのように反映しているのか。 3. 言語学における相互行為アプローチとナラティブアプローチの組み合わせは、ELFとアイデンティティに関する既存の研究に対してどのような新しい知見をもたらすことができるか。 分析においては、収集済みの3つのデータセットの内の1つのデータセットを使用し、インタラクション中に出てくる話者のidentityを表していると考えられる語表現やパラ言語を抽出した。インタラクション後の回顧的インタビューで得たデータもナラティブとして扱い解釈学的方法を用いて分析を進め、インタラクションデータの分析と関連付けながら検証を行った。分析内容の一部の研究結果を「共通語としての英語(ELF)を介した内集団における連帯と多文化アイデンティティの構築― ことばの相互行為分析とナラティブ分析の経過報告―」という題目で口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究全体の進捗状況は昨年度までの遅れを原因として遅れ気味ではあるが、近年の研究動向に従った新たな文献研究をとデータ分析を着実に進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、引き続きデータの分析の継続(全3セットのデータ)、分析結果の検証を行い、主に論文発表を通して調査報告や成果公開をする。以下の4点の研究目的を指標とし、研究を進める予定である。 1.ELF話者が相互行為のなかでそれぞれの文脈に応じた規範(例えば共感的態度や連帯感など)をつくり出しているか否か、またつくり出しているとしたら、それはどのようなプロセスによってかを明らかにする。 2.ELFコニュニケーションにおける話者たちの「ポジション」に関する調査を行う。特に話者たちが自他をどのように位置づけているのか、また相手からなされた自己の位置づけに対して、どのように抵抗または同調するのかなどを明らかにする。 3.ことばの相互行為のなかで、いかに言語的・文化的・記号論的資源が生じ、また示されるのか、さらにはそれらの資源がどのように自他のポジショニング行動に影響しているのかを明らかにする。 4.ELFコミュニケーションにおける自他のポジショニング行動が、どのようにその背景にある複層的な文脈(例えばお互いの生まれ育った文化、会話の行われている場面など)に影響を受け、また方向づけられているのかを、ELF話者のナラティブをもとに明らかにする。
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Causes of Carryover |
2020年度に研究報告を予定していた国際学会がコロナウイルスの蔓延で2021年度へ順延となり、その旅費として使用する予定であった予算が使用できなかった。2021年度も当国際学会の開催に関する情報はなく、また国内における学会や研究会でも対面の研究報告は見込みがない。よって2021年度の予算は論文執筆に必要な印刷費、消耗品(プリンターインクなど)、原稿校正費に使用する予定である。
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