2016 Fiscal Year Research-status Report
20世紀前半ペルシア湾における「奴隷解放調書」の研究
Project/Area Number |
16K16896
|
Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
鈴木 英明 長崎大学, 多文化社会学部, 准教授 (80626317)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | ペルシア湾 / 真珠 / 奴隷 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、イギリス・ロンドンとインド・マハーラーシュトラ州ムンバイにおいてそれぞれ文献調査を実施した。ロンドンでは国立公文書館と英国図書館、ムンバイではマハーラーシュトラ州立文書館をそれぞれ調査対象とした。ロンドンでは、どちらの施設においても、特にペルシア湾関係文書を悉皆的に調査した。悉皆調査は完了していないが、現段階においても、これまで報告者未見の証言が多数存在することを確認するに至った。ただし、それらのなかにはマイクロフィルム化されていないものも少なくないので、史料を取得するための再調査が必要である。ムンバイでは、一日あたりの閲覧可能ファイル数の制限があるために、十分な調査ができなかった。また、ペルシア湾関係ファイルにはそれほど多くの証言は見当たらなさそうである一方、ボンベイの警察関係ファイルに関係文書が存在する感触を得た。これは来年度の課題となった。 データベース化の作業は、項目の選定などに時間を取られ、想定していたよりも作業が滞った。 また、本年度は、6月末に立教大学史学会公開シンポジウムにおいて、19世紀のインド洋西海域における奴隷交易・奴隷制の展開の報告をする中で本研究課題についても論じ、続く6月末から7月上旬のオーストラリア・パースにおけるInternational Congress of Maritime Historyでは紅海における真珠採取業の展開との比較においてペルシア湾のジレに言及した。また、11月にチリ・サンチアゴで行われた国際シンポジウムでは世界史的共通体験としての奴隷制廃止に関する報告のなかで、やはり、本研究について言及した。立教大学史学会公開シンポジウムの報告を基にして「インド洋西海域周辺諸社会における近世・近代移行期とその矛盾――奴隷制・奴隷交易の展開に着目して」を『史苑』77巻2号において発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の進捗状況については、「(2)おおむね順調に進展している」に該当すると考える。ロンドンとムンバイで実施した調査で、資料の状況を把握し、加えて、データベースに組み入れるべき具体的なデータを得られたのは大きな収穫であった。また、当初の計画では来年度もそれらにおいて調査を実施することにしているが、そのための有効な指針を得られたことは大いに評価されるべきである。 他方、データベース化の作業においては停滞を見せた。ただし、これは本研究課題の要となるものなので、引き続き、丁寧な作業を心掛け、しっかりとした基礎を築いていきたい。来年度以降は、作業のスピードを速める必要が出てくる。 成果報告としては、当初は資料的価値を明らかにする報告を想定していたが、実質的には、本研究課題の世界史的、あるいはインド洋西海域世界史規模での位置づけを明らかにすることに終始した。研究の早い段階でこの点についての考えをまとめることができたのは、最終報告を考える際には有益であると思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
来年度以降の研究の推進方策については、特に申請時と大きな変更はない。 平成29年度は、資料の収集とデータベースの作成を継続する。データベースについては、なるべく早い段階で項目の選定を完了させ、資料整理の補助員を雇用し、効率化を図る。夏季にはマハーラーシュトラ州立文書館での追加調査及び、イギリスにおける調査(英国図書館、国立公文書館)を実施する。それぞれ2週間程度を予定する。夏以降は、前年度と同様に、資料補助員を雇用したうえで、データベース化を完成させる。また、当該年度中に資料的価値を明らかにする論文を完成させる。 平成30年度はデータ分析と追加調査、成果中間報告を核に研究を実施する。通年でデータベースの分析と成果中間報告として質的データの量的把握に関する方法論を確立する。この点については、2019年1月にアメリカ合衆国で開催される米国歴史協会American Historical Association大会に奴隷制・交易に関する新資料とその利用方法に関するセッションを応募する。また、夏季には、ペルシア湾岸諸国の南部(オマーン、アラブ首長国連邦)において証言に現れる地名を対象に実地調査を行う。 平成31年度は成果の最終報告論文の完成を目指し、データベース分析と実地調査とを行う。実地調査については、本年度はペルシア湾岸諸国の北部(カタル、バフライン、クウェイト)を対象にして行う。2020年6月にイギリスで開催される英国中東研究協会British Society for Middle Eastern Studies年次大会で最終成果報告に相当する、とりわけ20世紀前半のペルシア湾における奴隷制・交易の実態、奴隷の行動パタンを解明に関連する口頭発表を応募し、夏の調査を踏まえて、最終成果報告として最終成果の論文執筆を行う。
|
Research Products
(4 results)