2017 Fiscal Year Research-status Report
戦中戦後の日雇労働者の動員・組織化過程の研究―大日本労務報国会/労務協会を中心に
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16K16900
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
佐々木 啓 茨城大学, 人文社会科学部, 准教授 (50581807)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 大日本労務報国会 / 労務協会 / 日雇労働者 / 自由労働者 / 労務供給請負業 / 総力戦 / 労働力動員 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、研究計画を土台として、三つの方向で研究を進めた。 まず第一に、大日本労務報国会の各支部の活動状況について分析を深めた。特に、東京府労務報国会については、その中心人物である飛田勝造と関連する労務供給請負業者の動向について調査した。具体的には、全日本労務供給事業組合連合会の議事録や飛田著『国防国家の建設と労士の錬成』(1941年4月)などの史料に基づき、大日本労務報国会が設立される過程で、労務供給請負業者が果たした役割が大きかったことを明らかにした。 第二に、大日本労務報国会および労務協会についての関連文献を調査し、さらに当該期の新聞(読売新聞と朝日新聞)に掲載された関連記事の収集を進めた。ここでは特に、アルバイトを雇用して新聞記事データベースの悉皆調査を行うとともに、収集した文献の整理や史料の撮影などを行った。 第三に、上記と関連して、1930年代から40年代における東京の日雇労働者の生活・労働の実態について調査を進めた。特に、戦時動員政策が本格化する以前の、震災復興や東京港修築事業によって拡大する芝浦周辺の「下層社会」の実態について、関連する文献・史料で調査を進めた。 以上を通じて、戦時体制下における日雇労働者の組織化政策がもった意味について、職業行政に関わる官僚の視点からだけでなく、労務供給請負業者とその傘下にある労働者、および、無所属の日雇労働者などの視点から実態を掘り下げて検討することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大日本労務報国会を主たる研究対象としてきたが、同会のあり方が労務供給請負業者の動向にかなりの程度規定されていることが明らかとなったため、東京を中心に、労務供給請負業者の実態や、その下での日雇労働者の生活・労働の実態についての究明へと研究を進めている。従来の研究ではほとんど明らかとなっていない戦時期の日雇労働者の動向と、それを規定づけるところの労務供給請負業者の実態について、多角的な視点から深めることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、戦後史への展開まで視野に入れて、日雇労働者の動員・組織化政策がもった意味についてより一層深めていく必要がある。とくに、占領初期に排除の対象となった労務供給請負業が、1940年代末以降事実上の「復活」を遂げていく過程や、高度経済成長のなかで大きくその形態を変化させるようになっていくこと、さらに日雇労働者層の内実が時代を経るにつれて大きく変容していくことを念頭に置いて、分析をしていきたい。その際、社会学や経済学による「貧困」研究との成果を取り入れていくことが肝要になると思われるので、積極的に多分野の業績を調査していくことにしたい。
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Causes of Carryover |
家族の入院・手術などがあり、年度の後半で事業がやや滞ったことが第一の理由だが、他方で、労務供給請負業の実態など、新たに検討すべき課題が発見されたこともあり、その分析のためにより時間をかける必要があると考えた。 次年度は、労務供給請負業の実態の究明を軸にしつつ、戦後の日雇労働者の動向も視野に入れて、研究文献や史料の収集を進めていきたい。
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[Book] 日本帝国の崩壊2017
Author(s)
柳沢 遊、倉沢 愛子
Total Pages
488
Publisher
慶應義塾大学出版会
ISBN
9784766424300