2016 Fiscal Year Research-status Report
日本近代における歴史学界の形成―アカデミズム史学と「地方史学会」の関係から
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16K16914
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
廣木 尚 早稲田大学, 大学史資料センター, 助教 (00756356)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 史学史 / 郷土史研究 / 史料編纂 / 中島久万吉筆禍事件 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度にあたる本年は、研究計画にもとづき、国立国会図書館・早稲田大学図書館を中心に関係文献・史料の収集を行うとともに、栃木県足利市と佐野市での出張調査を行った。 特に足利市・佐野市での調査においては、足尾鉱毒事件反対運動で知られる田中正造の全集編纂が地域の有志によって進められ、『義人全集』として公刊されたという事実につきあたり、その具体的過程について調査と分析を行った。その結果、『義人全集』の編纂は、田中正造を、郷土の歴史が生んだ「義人」と捉える認識に基づいて行われたこと、編者をつとめた栗原彦三郎という人物が、編纂を通じて田中の後継者として認知され、後に当地選出の代議士となったこと、その栗原が、1934年に生起した足利尊氏論を原因とする中島久万吉商相の筆禍事件に関わっていったこと、といった新たな事実が明らかとなった。 これらの事実は、地域史研究と史学史研究を架橋し、歴史意識の側面から地域社会の変化や、ひいては近代日本の性格を理解するための新たな知見を見出すという本研究の目的に照らして重要な意義をもつ。のみならず、本研究が当初、中央のアカデミズム史学を基軸とする地方史学会の形成過程を想定していたのに対し、上記の事実は、地域独自の歴史編纂と、それに基づく地域意識の変化、政治・社会運動への影響等の存在を示しており、本研究の着想を再考し、内容を豊富化する意味でも貴重な成果といえる。 以上の成果は、2016年11月12日、京都大学人文科学研究所での第45回「近代天皇制と社会」研究会において「中島久万吉筆禍事件の社会的背景」として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
他の共同研究との関係で便宜を得たため、2年次、3年次に行う予定であった足利市での出張調査を前倒しで実施した。その結果、当初予定していた国会図書館・早稲田大学図書館等で収集済の史料の分析に遅れが生じている。しかし、地域の歴史研究や史料編纂活動の実態について新たな知見を得られたことは、次年度以降の研究を効率的に進める上でも示唆するところが多く、この成果を活用することで、最終的には現在の遅れは挽回しうるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
収集済の資料の分析に注力する。特に『史学雑誌』『歴史地理』等、専門誌の分析を重点的に行い、「地方史学会」とアカデミズム史学の交流の具体像を跡付けることを心掛けたい。加えて、研究計画通り、仙台、熊本での出張調査も実施する予定である。
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