2018 Fiscal Year Research-status Report
古代末期から初期中世期におけるキリスト教殉教概念変遷史の政治史的解明
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16K16930
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
大谷 哲 東海大学, 文学部, 講師 (50637246)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 殉教 / 初期キリスト教 / 受容史 / 古代ローマ / 古代末期 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は研究計画に従い、古代末期から中世へとキリスト教会における殉教者記録と言説が伝承する過程を分析した。具体的には、4世紀の教会史家エウセビオスが記録した殉教記録の元資料をどのように入手したのか、想定される経路を検証することで、古代末期までの殉教記録の形成・収集の一端を明らかにした。同時に、エウセビオス自身がその殉教記録をどのように加工し、自身の歴史叙述上に配置したのかを彼の執筆した『教会史』『パレスチナ殉教伝』を素材として検証した。その上で、エウセビオスの残した歴史書が中世ヨーロッパ社会に受容され、キリスト教化される社会の中で人々のアイデンティティ形成に活用された事例を考察するという作業を行った。 これらの研究成果のうち、特にエウセビオスの殉教記録の加工ならびにエウセビオスの残した歴史書がキリスト教化される中世ヨーロッパ社会で受容される経路については、日本における専門研究者との妥当性検証だけでなく、世界的なレベルでの専門研究者の意見を反映したいと考え、2018年9月に岡山大学で開催された初期キリスト教研究に関する国際学会で研究報告を行い、研究報告の妥当性を確認した。特にエウセビオス史書のラテン語翻訳者であるルフィヌスの研究に関して、同時代のキリスト教テキストにおけるヘブライ語―ギリシア語―ラテン語史料研究に関する各国の専門家たちからアドバイスを受けることができた。 エウセビオスによる殉教記録の加工に関しては、特に彼が活用した前時代の歴史家であるユリウス・アフリカヌスやヘゲシッポス等の史料、また新約聖書収録文書を中心に研究が進展したため、その妥当性を問うため東京大学で開催された国内学会の西洋史部会で研究報告を行った。 これらの研究成果に前年度までの研究実績を併せ、二本の欧文論文を年度末に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
所属研究機関を変更したことで、科研費執行が8月後半以降にずれ込むなどの一時的な中断期間を置かざるを得なかったが、新旧の所属研究機関の協力のおかげを持ち、その後科研費執行が可能となり研究体制が整った。9月には国際学会での研究報告を予定通り行い、11月には国内学会での研究報告を行うことができた。上述の理由により論文を学術誌等に投稿する時期が年度後半にずれこんでしまったため、今年度中に刊行された成果は少ないが、次年度以降に公開される予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究計画の遂行中、特にイタリアおよび首都ローマでの殉教者崇敬の形成についての重要な研究がイギリス・フランスの研究者から発表された。これらの研究成果は史料集成の形をとってオクスフォード大学出版局から刊行されており(E.Rebillard, Greek and Latin Narratives about the Ancient Martyrs, 2017, M. Lapidge, The Roman Martyrs,2018)、今年度5月にも新たな史料集成が刊行される(D. Eastman, The Many Deaths of Peter and Paul, Oxford UP, 2019)。次年度はこれらの新史料集成を入手・参照する必要が新たに生じたが、すでに今年度までに刊行された集成は入手することができており、また史料集成を刊行した研究者には、これまでの研究実績の成果として刊行した論文を送り、研究への助言を求めている。それゆえ当初の研究計画と変わらず、特に西地中海世界のキリスト教化における古代ローマ期の殉教者史料の受容と、社会の集団的記憶形成の関係を究明していく。
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Causes of Carryover |
当該年度は所属研究機関の変更に伴い、科研費執行が一時的に中断し、そのため今年度研究成果の公開方法として研究計画の中で企図していた国際学術誌等への欧文論文投稿が年度後半にずれ込むこととなった。査読期間を経て投稿が受理された場合でも、査読者あるいは編集者の要求によって論文を改稿する必要がしばしばあるため、トータルでの研究計画期間内での成果公開をゆより確実にするため、査読後の改稿論文を限られた時間内でネイティブチェックにかけるための欧文校閲費用を次年度計画に移動した。現在、2本の欧文論文を投稿済みであり、編集者とのやり取りの中でそれぞれの改稿期間と投稿論文のページ数(+文字数、使用言語)に応じて予想される校閲費用を計算している。なお、欧文校閲費用の概算額は、これまでの研究機関に利用してきた欧文校閲会社の請求金額をもとにしている。上記の理由で、次年度使用額が生じ、また使用計画も上述のように確定している。
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Research Products
(2 results)