2016 Fiscal Year Research-status Report
世紀転換期オーストリアにおける「中欧経済圏構想」の研究
Project/Area Number |
16K16934
|
Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
杵淵 文夫 東北学院大学, 文学部, 講師 (30637278)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 西洋史 / オーストリア / 中欧 / 通商政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画は、世紀転換期オーストリアにおいて中欧諸国の経済連携が構想され推進団体が結成されるに至った経緯を明らかにしようとするものである。本研究の検討は通商政策に利害関心をもつ諸業界、知識層、政府などを対象に行われる予定であり、平成28年度は主に知識層に焦点を当てて研究を実施した。 第一に、「オーストリア経済学者協会(Gesellschaft oesterreichischer Volkswirte)」で展開された通商政策の議論について資料を収集し、読解作業を行った。とりわけ、同団体が1900年に「ドイツとオーストリアの関税通商連合」を主題として開催した集会に着目した。これを取り上げたのは、それがオーストリアの学者、政策専門家、ジャーナリストらが農工業の利害代表者の講演を踏まえて広域的な経済圏について討論した集会であり、彼らの位置関係を把握する上で重要であるからである。この討論の検討は、経済連携の方法、対象範囲、各人物の立場などに着目して進めた。 第二に、経済学者ユリウス・ヴォルフ(Julius Wolf)による中欧諸国の経済連携の構想を検討した。1905年の「オーストリア中欧経済協会(Mitteleuropaeischer Wirtschaftsverein in Oesterreich)」創設のきっかけとして重要であることが、これを取り上げた理由である。彼が世紀転換期にこれを提唱するに至った経緯について、史資料を読解し当時の社会的・思想的背景や人的関係の点から考察を加えた。この研究成果は論文として学術誌上で公表した。 第三に、農工業利害の検討は翌年度に実施の予定であったが、一部の工業団体の史資料入手の目途がついたため、予定を繰り上げて読解作業を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度には、当初の予定通り知識層に焦点を当てた研究を遂行するとともに、平成29年度に着手する予定の一部を繰り上げて工業利害の分析を行った。 前者に関しては、「オーストリア経済学者協会」の検討を通じて、世紀転換期における広域的な経済連携の構想をめぐる知識層の状況を分析できた。ただし、対象の分量が想定以上に多かったため、分析を1900年の集会に絞るのに合わせて史資料の収集方法を変更した結果、構想の主導者について掘り下げて分析するには至らなかった。そのため、これを検討することが次年度以降の課題として残された。後者に関しては、「工業家クラブ(Der Industrielle Club)」など経済団体の刊行物の一部を入手し、広域的な経済連携に対する同団体の立場について分析を始めることができた。以上から、平成28年度の作業の一部は完了しなかったものの、平成29年度の計画を前倒しできたため、(2)と評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、第一に、世紀転換期オーストリアの農工業団体などを対象として研究を実施する。平成28年度に着手した分析作業を継続するとともに、その他の農工業の諸団体の刊行物等を海外および国内の資料館で収集し、その分析を通じて諸利害がいかなる通商政策を追求していたのかを明らかにする。具体的には、農業に関しては「通商条約締結に関するオーストリア農林業利害擁護総本部(Oesterreichische Centralstelle zur Wahrung der land= und forstwirthschaftlichen Interessen beim Abschlusse von Handelsvertraegen)」を取り上げ、工業に関しては「工業家クラブ」および「オーストリア工業家中央連盟(Centralverband der Industriellen Oesterreichs)」を取り上げ、それぞれについて広域的な経済連携に対する諸利害の立場を明らかにする。 第二に、平成28年度から積み残された課題として、知識層の主導的な人物に焦点を当てた分析作業を行う。現地で史資料を収集し、彼らが当時の論争状況に対して中欧諸国の経済連携を推進しようとするに至った経緯を明らかにする。 以上の検討から得られた研究成果は学会や研究会または学術誌などを通じて公表する。
|
Causes of Carryover |
使用額変更の主な理由は、史資料収集の方法に関する予定の変更による。すなわち、平成28年度の当初の計画では、海外での史資料調査・収集を予定していたが、検討対象の分量の多さから分析を絞る必要が出てきたため、「オーストリア経済学者協会」が開催した1900年の集会の分析に集中し、これに合わせて現地調査による網羅的な史資料収集から中心的な史資料の購入に切りかえた。使用額の変更はその結果として生じたものである。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度の研究の結果、世紀転換期に知識層の間で中欧諸国の経済連携が推進された経緯を把握する上で、さらに、それを主導した人々の通商政策思想の内容および背景を詳細に分析する必要が生じてきた。そこで、平成29年度には関連の史資料を入手するために、オーストリア国立図書館(Oesterreichische Nationalbibliothek)および京都大学大学院経済学研究科図書室などにおいて史資料調査を行う。これと合わせて、当時の欧米諸国の経済情勢を広く把握する必要があるため、関連する研究文献などを適宜入手する予定である。
|