2017 Fiscal Year Research-status Report
世紀転換期オーストリアにおける「中欧経済圏構想」の研究
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16K16934
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
杵淵 文夫 東北学院大学, 文学部, 講師 (30637278)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 西洋史 / オーストリア / 中欧 / 通商政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画は世紀転換期オーストリアにおいて中欧諸国の経済連携が構想され、経済団体の協力の下で推進されるに至った経緯を明らかにしようとするものである。本研究の検討は、通商政策に利害関心を持つ諸業界、知識人、政府などを対象に行われる予定であり、平成29年度は主にオーストリア農工業に焦点を当てた。 農業に関しては「通商政策締結に関するオーストリア農林業利害擁護総本部(Die Oesterreichische Centralstelle zur Wahrung der land= und forstwirtschaftlichen Interessen beim Abschlusse von Handelsvertragen)」(以下農林業総本部)を取り上げ、工業については、「工業家クラブ(Der Industrielle Club)」および「オーストリア工業家中央連盟(Centralverband der Industriellen Oesterreichs)」を取り上げた。これら諸団体を取り上げた理由は、それぞれ農工業の全国規模の経済団体であって、オーストリアの通商政策への利害の把握に適していると考えられたためである。 特に中心的役割を果たした前2団体については現地での資料調査によって、資料館等における刊行物の所蔵状況および主要機関誌の掲載記事について把握することができた。それ以外の個別の史料についても海外および国内(京都大学図書館、同志社大学図書館等)で調査を進め、農工業利害に関する史料収集はほぼ完了した。また、史料収集後には、農業と工業に分けて世紀転換期におけるオーストリアの通商政策に対する立場や政策論上の位置関係、とりわけアメリカ合衆国の保護関税問題に関する議論の展開を中心に分析を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
所蔵物の史料調査においては、「農林業総本部」と「工業家クラブ」の刊行物「Mittheilungs der Oesterreichischen Zentralstelle zur Wahrung der land- und forstwirtschaftlichen Interessen beim Abschluss von Handelsvetrage」や「Mittheilungs des Industriellen Club」を調査し、世紀転換期に掲載された記事を網羅的に把握することができた。その所蔵状況等の調査の一部成果については、Research Mapにおいて公開している。 それ以外の個別の史資料入手も含めた2017年度の調査活動の結果、農業と工業の諸業界におけるオーストリア通商政策の議論が、とくに1897年以降のアメリカ高率保護関税の問題を契機として変容し、中欧諸国の経済連携の構想へと収斂していく過程を検討し明らかにする目処は立てられた。ただし、農業団体とくに「農林業総本部」についてその分析内容を研究成果として2017年度中に公表することを目指してはいたものの、それには至らなかったため、(3)の評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は、引き続き農工業の各団体における通商政策の議論に焦点を当てて、史料分析の作業を進める。2017年度の調査の結果、農工業の諸団体において1897年以降にアメリカ合衆国の保護関税への対抗措置を政府に求める提議が徐々に増加したこと、および諸団体が対抗措置導入への圧力として単独ないし共同で大会を開催する事例が増加していったことは明確になっている。これら集会における議論に焦点を当て、中欧諸国の経済連携が提起されるに至った背景を明らかにすることを目指して研究を進める。これと関連して、「オーストリア経済学者協会」の分析結果も合わせて、1905年に「オーストリア中欧経済協会(Mitteleuropaeischer Wirtschaftsverein in Oesterreich)」が設立される過程を明らかにする。また、こうした産業界の運動の政治的インパクトを把握するために、当初計画されていた通り、この当時のオーストリア政府の通商政策も検討する。現地の文書館等での調査によってオーストリア政府の公文書の収集を行い、農工業の諸要求が政府の対外政索に及ぼした影響も明らかにする。以上の研究成果は、それぞれがまとまり次第公表していく。
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Causes of Carryover |
2017年度は、2016年度に史資料の入手を購入中心に進めていたことを踏まえて、現地での資料調査活動に集中することとした。そこで、2017年度における関連研究文献の入手は2018年度に行っても差し支えないと判断した結果、この使用額の変更が生じた。 そのため、最新の研究動向の把握は課題として積み残されることとなったが、2018年度は研究文献の購入によってこの積み残し分を消化することとなる。それとともに、オーストリアでの公文書資料の調査と収集も実施する予定である。この公文書調査に関しては、これまでの経験を踏まえて、公文書館等における資料調査で着実に成果を上げるために、当初の計画よりも調査期間を長くかけて実施する予定である。
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