2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K16935
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
高橋 亮介 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (10708647)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | エジプト / パピルス / 古代末期 / ローマ帝国 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、地中海世界における古代末期の状況について、エジプトからの出土文字資料であるパピルス文書を分析することで、新たな光を投げかけようとするものである。4世紀エジプトのファイユーム地方由来の家族文書群の精査を通して、古代末期社会の諸相を明らかにしようする本研究は、個々の史料の内容と解釈を最新の研究成果に照らし合わせ再解釈し、そこに現れる人間関係を再構成しつつ、「地域的環境」「行財政と司法」「経済活動」の3つの主題について掘り下げることを目的としている。 本年度は、ファイユーム西部の状況を示す「アビンナエウス文書群」と「サカオン文書群」の検討を行った。「アビンナエウス文書群」については、文書群の内容と特徴およびこの文書群が示すローマ軍の役割について考察した論文「砂漠の縁のローマ軍:帝政後期の辺境軍の文書を読む」を作成し発表した。その過程で、アビンナエウスの家族と私生活に関係するとみなされてきた文書が、彼の文書群には属さないことを論じた最新の研究に触れ、家族文書群研究という本研究の枠組みで考察することが必ずしも適切ではないことが明らかになった。その一方で、前年度に得られた視点を補強する、ファイユーム西部のローマ軍の存在は西方砂漠とそこに展開した軍の状況と併せて考察されるべきであるという見方が確認された。 「サカオン文書群」については全体の内容を把握したうえで、水の利用と耕作、納税が困難になっていく状況を示すとされ、多くの先行研究で言及される史料を精査した。その結果、農民の逃亡や役人への訴えは、住民たちが税を課す公権力との交渉を円滑に行うための手段とみなしうること、全般的に衰退していくように見られる村落内で、権勢と財力を増していく家族がいた状況が確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の対象となる3つの文書群のうちの1つ、アビンナエウス文書群については、紹介的ながらその性格を考察した論文を発表することができた。本研究課題の当初の狙いからは外れるものの、この文書群を活用した、あるいはここから示唆をえた研究の方向性を示した。またサカオン文書群についても論文発表が可能になりうるトピックをいくつか見つけることができた。その一方で、もう1つの研究対象であるアウレリウス・イシドロス文書群については分析が十分に行えていない点に課題が残るが、おおむね順調に研究は進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
分析が進んでいないアウレリウス・イシドロス文書群を検討を進め、サカオン文書群との比較を経済活動と司法実践に関して行う予定である。サカオンとその家族の活動からは、婚姻を通して親族関係を構築していた人たちの間での協力や競合が見出されている。これと比較可能になるような事例をアウレリウス・イシドロス文書群あるいは他の同時代史料から見つけ出すことができれば、4世紀のエジプト農村社会の特徴として提示できるが、前後の時代の状況を含めた史料の検討が必要になってくるであろう。
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Causes of Carryover |
英国での調査に際して、計画していた研究者との面談が難しいことが事前に分かったために、期間を短縮して実施したため。次年度使用額は、次年度に予定している海外出張あるいは物品の購入に充てる。
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