2017 Fiscal Year Research-status Report
北海道における先史時代の資源利用の解明に向けた基盤構築―置戸産黒耀石を観点に―
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16K16942
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Research Institution | Sapporo Gakuin University |
Principal Investigator |
大塚 宜明 札幌学院大学, 人文学部, 講師 (60721800)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 置戸黒耀石原産地 / 黒耀石資源情報 / 原産地遺跡 / 置戸山2遺跡 / 大規模石器製作跡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、北海道の四大黒耀石の一つである置戸産黒耀石に注目し、先史時代における資源の利用やその変化を考察するための基盤を構築することである。本研究では置戸産黒耀石原産地の調査を周辺領域(岩石学・地質学・分析科学・埋蔵学)と協力し多角的に実施することで、置戸産黒耀石の産状と特徴といった資源情報を整備するとともに、先史時代における置戸産黒耀石原産地の開発の様相を明らかにする。平成29年度は、以下の2つの調査項目を設定し調査研究に取り組んだ。 調査項目1では、置戸黒耀石原産地における黒耀石の資源情報を整備するため、置戸産黒耀石原産地の内、黒耀石の産状がほとんどわかっていない置戸山を対象に石材分布調査を実施した。その結果、未調査の置戸山南東部を除く、置戸山のほぼ全域において自然状態での黒耀石の分布の有無を把握することができた。 調査項目2では、置戸黒耀石原産地における人類活動を把握するため、①置戸山を中心に分布調査、②置戸山原産地に位置する槍先形尖頭器の製作跡である置戸山2遺跡の発掘調査を実施した。①の成果により、黒耀石原石が付近でみとめられない置戸山南西部の独立丘において縄文時代早期~前期初頭の人類活動痕跡を確認することができた。②の成果により、地表面で散布している槍先形尖頭器と同様の特徴を示す石器群を検出し、それらの石器群の包含層を明らかにすることができた。また、わずか9㎡の調査範囲ではあるが、槍先形尖頭器102点を含む約9万点もの資料(大部分は石器製作時の残滓)を検出した。未調査部に遺跡が広がることは確実であり、本遺跡が槍先形尖頭器の大規模石器製作跡であることが明らかになった。 また、普及事業として、学内の考古学資料展示室において、本研究で実施した発掘調査および分布調査の成果を展示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
置戸黒耀石原産地における黒耀石の資源情報の整備および人類活動の把握を目的に調査を実施した。平成29年度における黒耀石資源情報の整備については、置戸山2遺跡を含む置戸山南西部および置戸山東部の黒耀石原石の分布状況の解明を具体的な目標とし調査を実施した。上述した調査目標の達成に加え、白滝産黒耀石に特徴的な「花十勝」に類似する赤色黒耀石の存在を確認するとともに、それらが置戸山産であることが理化学的に明らかになるなど、当初の計画では予期していなかった重要な成果を得ることができた。 置戸黒耀石原産地における人類活動については、置戸山2遺跡における遺物包含層の確認と石器製作内容の確認を主な目標とし発掘調査を実施した。槍先形尖頭器石器群に属する多量の遺物とそれらの主要な遺物包含層を確認するとともに、主要な包含層より下層では遺物や石器製作の原料となる大形黒耀石がほとんどみとめられないことが確認できた。当時の黒耀石原石の分布状況と人類活動の濃淡が対応することから、資源環境の変化が大規模石器製作跡の有無と関連することが予測された。 以上のように当初計画していたよりも多くの成果を得ることができた。平成30年度は遺跡の広がりと石器製作の内容を詳細に明らかにするため、調査区を拡張し発掘調査を実施する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度も引き続き置戸黒耀石原産地における黒耀石の資源情報の整備および人類活動の把握という2つの研究項目を設定し調査研究を進めていく。 置戸黒耀石原産地における黒耀石の資源情報については、平成30年度には黒耀石資源情報の完備を目標とし、置戸山の未調査部(南東部)の石材調査を実施する。 置戸黒耀石原産地における人類活動については、上述した石材分布調査時に遺跡の分布調査を並行して実施するとともに、置戸山2遺跡の発掘調査を通して、置戸山2遺跡における人類活動の様相(遺跡での具体的な作業内容と資源環境の対応関係)の把握を目標とする。平成29年度に実施した置戸山2遺跡の発掘調査により、発掘区には良好な状況で石器群が遺存することが確認できたため、平成29年度の調査区を拡張する形で調査を実施する計画である。 また、これらのフィールドワークに加えて、黒耀石製遺物・原石を対象に原産地推定分析を積極的に実施することで、本研究により採集・発掘した資料と原産地との関係についても整理を進める。 なお、本年度の研究成果に関しても、国内外の学会において発表する予定である。
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Causes of Carryover |
理由:本研究の計画にあたっては、遺跡の年代を明らかにするため、年代測定分析の実施費用を計上していた。しかし、平成29年度の発掘調査では、年代測定分析が実施可能な資料を検出することができず、年代測定分析の実施費用として計上していた額が未使用となったため、次年度使用額が生じることになった。 使用計画:平成30年度は発掘調査区を拡張しより広範囲に発掘調査を実施する予定であり、年代測定分析の対象となる資料の検出が予想される。また、平成30年度の調査においても年代測定分析の対象資料を検出できなかった場合、調査で採集・出土した黒耀石製石器の産地を明らかにするため、黒耀石原産地推定分析の実施費用に充てる計画である。
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