2017 Fiscal Year Research-status Report
土器生産からみた北メソポタミア青銅器時代過渡期の考古学的研究
Project/Area Number |
16K16947
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Research Institution | Ancient Orient Museum |
Principal Investigator |
下釜 和也 (財)古代オリエント博物館, 研究部, 研究員 (70580116)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 前期青銅器時代 / 土器 / 過渡期 / シリア / アナトリア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、国内の研究機関に所蔵されているメソポタミア地域遺跡の出土資料、特にテル・ルメイラ(テル・アリー・アル=ハッジ)遺跡の土器資料の分析を主たる対象としている。平成29年度は、以下の研究計画を実施した。 (1)土器資料の分析:引き続き、集落遺跡テル・ルメイラの下層(前期~中期青銅器時代)からの出土土器について基礎的な分析を実施した。その結果、過渡期と呼ばれる時代に、同遺跡では居住の連続が認められるとともに、その前後の土器器種構成や製作技法において一定の連続性がみられる点が判明した。しかし、他地域で製作された搬入土器の減少という点で土器利用の在地化が確認でき、地域間交流という点では先行時期よりも低調になっていく傾向が認められた。 (2)対象遺跡出土試料の年代測定:周辺遺跡のデータとの対照のため、テル・ルメイラ遺跡出土炭化物の放射性炭素年代測定を実施し、過渡期の実年代推定に新資料を得た。 (3)北メソポタミア青銅器時代の土器文化と周辺地域との関係:本研究の対象とする土器文化の変遷との比較考察として、隣接するアナトリア(現トルコ共和国)のキュルテペ遺跡出土資料(前期青銅器時代)の分析を実施した。特にルメイラ墓地の造営時期および上記の集落遺跡の居住期を含む約千年間の時間幅をもつ土器資料を観察できた。本研究の予定には計画していなかった資料であるが、文化交流のあった北メソポタミア地域とアナトリア地域の双方において土器資料群の変遷が同じ傾向を示すのかを確認するための第一級の基礎的な分析データを得ることができた。 (4)研究発表:前年度に行った墓地出土資料の研究をもとに、その成果を学会にて口頭発表した。また、これに関連して研究対象とする古代集落や社会が都市化に伴い変質していく過程を、定住農耕民と遊牧民の関係という視点から墓地・物質文化・集落・建築データ(モニュメント遺構)をもとに研究した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では国内所蔵資料を中心に進めているが、アクセスが容易であることもあり、概ね順調である。前年度に予定していた出土炭化物の年代測定も実施し、本研究にとって有益な年代データを獲得できた。測定データの評価は現在検討中である。 また、前年度までの研究成果について国内・国外2つの学会で3本の研究発表を行い、成果の一端を公表する英文の論文が公刊された。 さらに今年度は、当初予定していなかったアナトリア遺跡の資料を実地分析することが叶い、本研究において注目している青銅器時代過渡期の様相を新たな出土資料をもとに考察できることになった(研究実績(3)を参照)。この点は、本研究の独創性をさらに高めることにつながることが予想される。 また、本研究の中心となる厖大な出土土器資料の整理(分類・管理・データ化)については、研究補助の雇用が依然実現しておらず、代表者が少しずつ実施中であるが、当初の予定より若干遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる次年度の予定としては、本研究の柱であるテル・ルメイラ遺跡出土資料の分析について完了をめざす。また、前年度の年代データの評価とともに、必要であれば補完的な年代測定(数点)も想定される。これによって、当該時期の物質文化のなかでも最も変化パターンが明瞭な土器資料についてのデータと年代測定データという二つの基本的な研究データがそろい、最終的な考察のための材料が用意できることになる。 比較資料として当初より考察の対象としているシリア東部のテル・タバン遺跡出土資料についても、基礎資料の調査を完了させたい。 また今年度から計画変更としたアナトリア遺跡の出土土器研究についても調査を実施する内外機関の研究者から了解を得ることができた。北メソポタミア青銅器時代の過渡期研究にとって絶好の比較資料であるとともに、地域間交流が過渡期においてどのように変化したのかを知る重要なデータでもあることから今年度も実地調査の継続を予定している。 以上の基礎データを今年度に統合し、北メソポタミア青銅器時代の過渡期が物質文化でどのように捉えられるのか、従来説のように都市化とその衰退と集落変遷という社会動態と物質文化(特に土器資料)との相関が捉えられるかどうかを検証した成果としてまとめる予定である。
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Research Products
(9 results)