2017 Fiscal Year Research-status Report
多面的機能レジーム下の先進国山村の再編と領域化に関する研究
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16K16952
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
市川 康夫 明治大学, 研究・知財戦略機構, 日本学術振興会特別研究員 (60728244)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 南フランス / 田園回帰 / ジュラ / ラングドック / 世界遺産 / 美しい村連合 / 過疎化 / 海浜リゾート |
Outline of Annual Research Achievements |
本科研では多面的機能レジーム下のフランス山間地域農業の再編を,グローバルなMFA(農業の多面的機能:Multi-Functional Agriculture)政策の農業経営への影響,そして農業の環境管理や文化資源の活用に伴う地理的な領域化に注目して動態的に明らかにすることを目的としている。 本年度は、フランスジュラ地域におけるフィールドワークとフランスラ、ングドックルシヨン地域におけるフィールドワークの2つを行った。まずジュラ調査では、まずリヨンにて農村の田園回帰及びフランスで最も美しい村に関する資料収集を行い、フランスの観光を担う組織VVF Franceのあるクレルモン・フェランにて聞き取り調査及び資料提供を受けた。またフランスで最も美しい村連合の本部のあるコロン・ド・ラ・ルージュへ行き、村における観光の状況と景観について情報収集し、カンティニ村にて新住民、村長への聞き取り調査、及びアンケート調査の協力依頼、ラングドック南部の潟湖周辺における宅地化の進行と、工業化に関する概況調査をし、ペロルにおける宅地化に関する概況把握。モンペリエ近郊における海浜の人口増加地域カルノン・プラージュにて景観調査し、セヴェンヌ地域でもやや西に位置する遺産化地域の植生や土地利用を調査した。また、セヴェンヌ西側の冬季観光地化の拠点であるエグアル山にて来訪する観光者の様子と彼らの宿泊地であるエスペルーにおけるスキーを中心とした観光化の展開を景観調査し、ヴァルローギュ近郊の農村民宿経営者に現地の観光化の特徴と過程について聞き取り調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はおおむね順調に進展している。特に、本年度は下記の調査をしたことが要因として挙げられる。まず、セヴェンヌとともに遺産化地域に指定されているコース地方における植生や畜産の現況、移牧景観の調査をナヴァセル圏谷周囲を中心とした地域で行い、研究代表者が昨年から調査しているフランス美しい村連合であるラ・クヴェルトワーアードにて観光客の来訪現況を概観し、現地レストラン経営者に聞き取りを行った。また、コース地方の西南部、特に移牧者の宿営地や家畜のエタップ地を調査し、人口が増加しているヴィガンにおける農村移住者の家屋を景観調査。そして、原産地呼称の発祥であるロックフォール村にて、ブルーチーズ生産に関する調査。個人の生産者ビューベルジェ社にて聞き取り調査。また、ソシエテ社についても訪問を行い、工業的チーズ生産の現況を把握し、南仏のブドウ栽培、オリーブ栽培等、南部特有の土地利用に関する把握をナルボンヌ近郊で行った。そのほか、ペルピニャンからピレネー地域に移動し、ピレネー地域における農村観光化の事例とし、カステルヌー村、モセ村、エウス村にて観光化の動態と環境的特性、地理的位置と住宅の家屋景観の把握を行うことができた。南仏山村地域やジュラ山村における、人口動態や田園回帰、あるいは景観の変化に関する基礎的データを通して、次年度に向けた調査の発展可能性を定めることができた。また、当初予定していた多面的機能論に関する論文を査読誌に掲載したことも理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、景観の遺産化については、セヴェンヌ地域では山地酪農の衰退と森林化の進行が進んでいることが明らかとなった。特に、セヴェンヌにおける遺産化は景観だけではなく、中世由来の村々や教会や歴史遺構の残存があることを、実際の景観から把握した。また移牧民による石積みや家畜のエタップ地の景観が、地域的に偏在しており、文化景観の遺産化に地域的差異があることが明らかとなった。一方、観光化についての調査は、主にセヴェンヌ・コース地方の山間部、ピレネー山間部、そしてラングドック南部地域(海浜リゾート地)それぞれについて行った。セヴェンヌ・コース地方の山間部では、要塞都市であるラ・クヴェルトワーアードのように、農村観光を惹きつける村は多くはなく、地域全体として空き家化が進行しており、また住宅価格の低下にも現れるように条件不利地域としての性格を強めていることが明らかとなった。こうした点について、さらに発展させて調査を継続させる必要がある。また、海浜地域における宅地化と観光地化は、同じ南西部地中海沿いにおいてもその形成の地理的特徴や景観特徴、そして流入する人口数と社会的階層に差異があることが明らかとなった。それらはマリーナの規模やヨットのグレード、そして住宅の敷地や作り、レストラン数や保養施設の数などに現れていた。以上から、フランスにおける山間部と海浜部の観光化を中心とした地理的特徴と景観特徴には、地域的な差異があり、それぞれは小都市との距離、通勤地との位置関係、また工業や農業(畜産、甲種農業、果樹栽培)など産業の多寡が影響していることがわかった。しかし、まだ細かな資料や資料を保有する団体、また現地の調査が不足しており、今後の調査で継続をしていく。
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Causes of Carryover |
若干額が次年度繰り越しになったため。
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