2018 Fiscal Year Research-status Report
都市下層労働者のモビリティと対抗運動の動態: 場所概念の新たな可能性
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16K16955
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
原口 剛 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (40464599)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 場所 / モビリティ / 労働 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、場所・モビリティ・労働という現代地理学の重要概念をキーワードとし、都市下層労働者の戦後の労働史および対抗運動の動態を明らかにすることを目的としている。具体的には、散逸したままになっている一次資料を収集し、デジタル化を行なうことで資料保存を行なう。また、これらの資料を分析することで都市下層労働運動の実態を明らかにするとともに、場所やモビリティ等の地理的概念が有する理論的可能性を提示する。 本年度においては、第一に、前年度までの活動に引き続き、寄せ場運動史にかかわる一次資料の収集を行なった。この研究課題については、各地に分散している同時期のビラや冊子に加え、写真記録にも対象を広げ、デジタル化の作業を実施すると同時に、目録の作成や分析を進めた。 第二に、1960年代~70年代当時の都市下層労働運動の当事者へのインタビュー調査を行なった。この研究課題に関して本年度は、釜ヶ崎や山谷等の寄せ場運動の当事者に加え、神戸港の港湾労働運動を担ってきた当事者に対するインタビュー調査に着手することができた。 第三に、1990年代以降の公共空間における反排除闘争やジェントリフィケーション対抗運動に関して、資料収集やインタビューを主とする調査活動を実施した。この研究課題ついては、国内外の研究会や学会、カンファレンス等において、調査活動のなかで得られた知見を報告した。さらに、これらの交流によって得られた議論を踏まえつつ、本研究の理論的課題の側面についても論考を公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度においては、第一に、寄せ場運動史にかかわる一次資料の収集を行なった。この研究課題については、とくに次の点で大きな進捗が得られた。1960年代末から90年代末に至るまで、釜ヶ崎の記録写真を撮影しつづけた写真家の中島敏氏の協力を得て、これまで未公表だった写真ネガ(約1万点)についてデジタル化に向けた取り組みを開始した。これらの写真記録は一次資料としての記録的価値がきわめて高く、これを保存しデジタル化することには大きな社会的意義がある。また、これらの写真記録は、都市下層労働者の生きられた経験を知るうえで重要な分析素材でもある。このように、労働の記憶とその保存・継承を目的とする本研究にとって、重要な機会が得られた。このほか、各地に分散している同時期のビラや冊子についても、ひきつづき収集を行ない、デジタル化や目録の作成・分析を行なった。 第二に、1960年代~70年代当時の都市下層労働運動の当事者へのインタビュー調査を行なった。この研究課題に関しては、とくに神戸港における港湾労働運動の当事者へのインタビューに新たに着手することができた。労働者の移動経路や運動の伝播の過程を明らかにしようとする本研究にとって、神戸港の港湾労働史へとアプローチする機会が得られたことは、大きな進捗であったといえる。 第三に、1990年代以降の公共空間における反排除闘争やジェントリフィケーション対抗運動に関しては、本研究を進めるなかで浮上した新たな研究課題であるが、この点についても大きな進捗があった。具体的には、この課題に取り組むなかで、「場所」概念を新たな視点から提示する可能性を見出すことができた。また学会や研究会、海外のカンファレンス等で研究報告を行なうなどして国内外の研究者と議論を交わし、本研究の課題にとって重要な知見を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策について、まずなにより、本研究には貴重な一次資料を収集するという記録的側面があり、その社会的意義は大きいものと考えられる。よって、収集した資料にアクセスできる環境を整えることは、本研究の重要な課題である。具体的には、収集した一次資料について、ウェブサイトを積極的に活用することで、本研究の知見を発信できる環境を構築する。とりわけ写真記録は、労働者の生きられた経験を知るうえで重要な視覚的資料である。またビラや冊子に記された文章やインタビューから得られた語りは、これらの視覚的資料を読み解くうえで重要な手がかりを与えてくれる。写真記録を主軸とし、文章の記録や語りを補助軸としつつ、諸資料をウェブサイト上にて公表することにより、場所の生きられた経験を再現することを試みる。 第二に、上記の目的を達成するために、ひきつづき資料収集とインタビュー調査を行っていく。本年度において、収集する資料の対象が写真記録にまで広がり、また調査対象についても神戸港へと広がりをみせたことは、本研究にとって大きな進捗であった。この可能性を十分展開させるために、いっそう精力的な調査活動を実施することが必要である。 最後に、次年度は本研究の最終年度であることから、本研究の総合的な知見をまとめ、発信していく。具体的には、国内外の学会やカンファレンス等において、調査研究から得られた知見を積極的に発信する。また、それらの知見を踏まえた総合的な分析と理論的考察を論文としてまとめあげ、提示するよう努める。
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Causes of Carryover |
写真資料のデジタル化について、想定していた支出額よりも若干安価であったため、次年度使用額が生じた。次年度において、デジタル化等の作業にかかる費用として支出する予定である。
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Research Products
(5 results)