2017 Fiscal Year Research-status Report
ケアの臨床現場における間身体性に関する人類学的研究
Project/Area Number |
16K16965
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中村 沙絵 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (80751205)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | スリランカ / 高齢者福祉 / ケアの人類学 / 情動・感情 / 身体 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は去年に引き続き、スリランカと日本において調査を実施し、ケアと間身体的経験にかかわる事象について広い視点から考察を深めた。スリランカでは、コロンボ県モラトゥワ市で暮らす高齢者の看護や看取りの現場で参与観察を行った。その結果、老年扶養をめぐる家族成員の試行錯誤の営みのなかに、厳密には家族とは呼べないものの、準家族成員とでもいい得るような存在の重要性が浮かび上がってきた。なかでも目立ったのが「家事労働者」である。昔から家族の一員として扱われてきた住みこみ型の家事労働者と、パートタイムで働く通い型とがあるが、いずれにおいても、高齢者を対象としたサービスの経験がある者が社会的に認知されていることがわかった。日本・熊本県水俣市では引き続き熊本学園大学水俣学研究センターの協力を得ながら行政や地域社会など様々な主体が運営する福祉施設の視察を行った。 成果発表としては、昨年度に刊行された単著の内容を理論的・方法論的に精査すべく、また新たにフィールドワークで得たデータを分析すべく、国内外で発表を行った。スリランカでの出版を念頭に主な調査地であるスリランカの研究者や活動家との議論に時間を割いたほか、日本では研究者のみならずケアに関わる実務家(医療者や宗教者)と対話する機会も得た。これらの発表原稿をもとに、平成30年度の刊行にむけて論文の推敲を進めている。また、昨年度刊行された単著『響応する身体―スリランカの老人施設ヴァディヒティ・ニヴァーサの民族誌』は、平成29年3月に第3回生存学奨励賞を受賞した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究プロジェクトの主旨である理論的考察は、調査者としての私の感覚や身体の用い方などフィールドワークの方法論とも密接に関わっている。しかし、短期間調査で効果的なデータを収集し方法論を吟味するまでにはなかなか至らず、短期間でのフィールドワークの難しさを痛感している。とはいえ、研究成果を国内外で広く知ってもらうためにも、成果発表は精力的に行い、多くの示唆を得ることができた。研究のためのネットワークは十分に広げることができたと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は刊行に至らなかったが、理論的考察を整理した論文(日・英)の推敲を鋭意進めており、最終年度では学術論文のかたちで「ケアをめぐる間身体性の経験」に関する方法論的問題提起を行う。また平成28、29年度を通じた研究会開催をきっかけに、スリランカ・南アジアにおける情動やケア、感覚といったテーマに関心をもつ研究者とのネットワークが構築されつつある。南アジア学会でのパネル発表をはじめ、次なるステップにつなげるためにも討議を重ねていく。
|
Causes of Carryover |
当初の予定では、最終年度にはフィールドワークを実施しない方向で考えていたが、平成29年度に収集したデータを捕捉する必要があることから、平成30年度にも海外調査を実施することとした。そのための旅費を平成30年度分として請求した。
|
Research Products
(9 results)