2018 Fiscal Year Research-status Report
ケアの臨床現場における間身体性に関する人類学的研究
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16K16965
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中村 沙絵 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (80751205)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 感覚 / 感覚の人類学/感覚人類学 / 情動体験の記述 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、スリランカ・シンハラ社会の介護と看取りの臨床現場を事例に、ケアをめぐる間身体性の経験の記述・分析方法について考察することであった。一連の研究活動を通して「感覚(の)人類学」(anthropology of senses/sensory anthropology)における議論との関連性がより明確になったと同時に、感覚に注目した民族誌的記述の意義について理解を深めることができたと考えている。 感覚の人類学/感覚人類学における主要な議論の一つは、研究者が感覚の文化的構築に重きをおくか、特定の感覚/感覚スキルがアクターをとりまく環境との相互行為のなかで浮上するダイナミックな過程に焦点をあてるかという点をめぐって展開してきた。両者は「文化」概念や感覚/知覚主体としての人間観において激しく対立する。しかしスリランカの老人施設という近代的な文脈で浮上しつつある新たなケアの関係性を理解するには、私たちの感覚的経験の柔軟性・可変性と、そうした経験に形を与える文化的カテゴリーの働きの双方に目を配った記述が必要であった。 民族誌はある文化についての客観的な記述であるというよりは、特定の文脈に置かれた〈調査者〉と〈調査対象者〉とのあいだの感覚をも含む相互感化の過程でつくられるテキストでもある。他者の感覚的な経験に着目する意義は、視覚・言語中心主義的な西洋近代の認知のあり方を相対化する点にのみあるのではなく、特定の歴史的・社会的状況を生きる人々の生の断面で生じる広義の情動体験を捉え、可能な限り了解可能性を担保した記述を行う点にある。その過程で、調査者自身の感覚のあり方は必要に応じて見直され、翻訳の作業がつづく。以上のように、本研究では伝達可能な理解を産出するのに寄与しうるような感覚に着目した民族誌的記述の手法と意義について、学会発表や論考の発表というかたちで公表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで書き留めてきたフィールドノートの読み直しと、これを補完する現地調査をもとに、類似の興味関心をもつ研究者と議論を重ね、日本南アジア学会での英語パネル発表"Ways of Sensing, Ways of Being: Sensory Anthropology from/among the Asia"というかたちでまず成果を公開した。その後も研究会やビデオ会議などで討議を続けており、パネルの内容についての報告を『南アジア研究』次号に掲載すべく準備している。内容をさらに発展させたパネルを今年7月にオランダ・ライデンで開催されるInternational Convention of Asia Scholarsに申請し、既に採択されている。ここでの発表内容をもとに、日本文化人類学の英文雑誌で特集を組むべく報告者と準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
同じような関心をもつ研究者と討議の場をもてたことを活かし、共同の研究成果として一度、成果を論文として公開したいと考えている。上述したとおり、今年7月にオランダ・ライデンで開催されるInternational Convention of Asia Scholarsでのパネル発表をもとに、日本文化人類学会の英文雑誌などで特集を組むべく準備を進めている。 2017年に発表した著書『響応する身体―スリランカの老人施設ヴァディヒティ・ニヴァーサの民族誌』の英語訳およびスリランカでの出版を念頭に準備を進めている。ここでは、現地ではあまり認知されていない新たなケアの関係性について描くと同時に、感情労働者としてのスタッフたちの置かれた社会経済的文脈に彼女たちの実践がどう織り込まれているかという視点から記述をふくらませる必要があると認識している。本研究の成果をマクロな文脈とどう交差させるかという視点から更に発展させていきたい。
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Causes of Carryover |
実質的に共同研究のような形となり、討議を重ねて国内・国際会議でのパネル発表やこれに基づく日本語・英語の論文投稿というかたちで成果報告を行うこととなった。国内会議(2018年度)をさらに発展させ、2019年度の国際会議及び英語論文発表につなげるため、英文校閲費や会議参加旅費として使用額を残した。
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Research Products
(14 results)