2019 Fiscal Year Research-status Report
船上生活者の教育と福祉に関する文化人類学的研究:日本・中国の都市部と村落部の比較
Project/Area Number |
16K16968
|
Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
藤川 美代子 南山大学, 人文学部, 准教授 (10749550)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 船上生活者 / 教育 / リスク管理 / 不確実性 / 中国 / 日本 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、以下の項目について調査・研究・議論することに努めた。 中国福建省南部の連家船漁民にとって、陸上定住化の過程はいかに経験されたのか。特に定住本位型社会とも呼ぶべき国民の統治方法が確立された後の現代中国において、船に住まいつづけるという行為はいかなる意味をもつのかを、自然環境や社会環境に潜む不確実性との対峙の方法という点から考察し、論文を執筆した。国家はリスク管理という視点から陸上の経済効果や衛生の実現を重視する都市開発や、海洋保護・治安維持・国防に関わる政策を打ち出し、それによって水上と陸上に跨った生活を試みる連家船漁民は家屋からの強制立ち退きや長期の休漁の強制、船の航行制限という、新たなリスクに直面している。それに対し、定住本位型へと傾斜する社会で、あえて船という道具によって移動性(=モビリティ)を確保しつづける連家船漁民の日常生活からは、管理の意図を読み、どの一線を越えてはならないかを注意深く見極めながら、好悪含む不確実性に満ちた河・海という自然環境に身を添わせようとする態度が導かれた。このなかで、連家船漁民の水上での移動性を担保する基本的なツールとしての船舶操縦免許が筆記試験合格を前提として発行され、そこのことは国家からの正式な操船許可を得るためには、船上で身体技法として体得したはずの操船能力を、「問題文を読み、回答を筆記する」ことによって証明せねばならぬという状況に触れ、陸上での定住的な生活をあえて回避する彼らもまた近代学校教育の影響から自由ではあり得ないと結論した。 今後は、収集した関連資料や現地調査のデータを分析し、学術雑誌への論文投稿を目指したい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2016~2019年度まですべての年度において、中国と日本で現地調査・資料調査を実施することができた。また、成果の一部を国内外の学会・フォーラム・シンポジウム・研究会等で発表し、多くの研究者と意見を交換することができたほか、論考としてまとめ発表することができた。特に2017~2019年度は、アジアの山地民・遊牧民・災害移民、ヨーロッパのロマといった遊動的な生活を送る人々を研究する研究者と共に議論を展開する機会に恵まれ、中国・日本の船上生活者の事例を、「遊動と定住」というより広い領域に位置づけて理解することができたのは望外の喜びであった。 なお、申請当初、中国・日本を調査地域と設定していたが、研究の進行に伴い、両地域と重複する政治・経済を経験した台湾本島・島嶼部での調査がきわめて有効であると考えるに至った。そこで2019年度末に台湾での現地調査を計画したが、日本の新型コロナ ウィルス市中感染拡大が危惧されるなか、台湾に赴くことは調査対象者の健康・入境管理上のリスクが高いと考え、中止を決断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
4年間にわたる現地調査・資料調査で得られたデータをくまなく分析するためには、より長い時間を費やす必要がある。今後も、国内外で開催される各種学会・シンポジウム等に参加して成果の一部を発表し、関心を同じくする研究者と議論していくつかのテーマでの論文執筆・投稿を目指したい。 また、2019年度末に断念した台湾本島・島嶼部での現地調査については、状況が改善されるのを待ち、2020年度以降に改めて実施して知見を深めることとする。
|
Causes of Carryover |
申請当初、中国・日本を調査地域と設定していた。研究の進行に伴い、両地域と重複する政治・経済を経験した台湾本島・島嶼部での調査が有効と考えるに至った。そこで2019年度末に台湾での現地調査を計画したが、日本の新型コロナウィルス市中感染拡大が危惧されるなか、台湾に赴くことは調査対象者の健康・入境管理上のリスクが高いと考え、中 止を決断した。状況が改善されるのを待ち、2020年度に改めて調査を実施する。
|