2018 Fiscal Year Research-status Report
現代インドにおける遺伝子の社会的布置に関する人類学的研究
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16K16970
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
松尾 瑞穂 国立民族学博物館, 超域フィールド科学研究部, 准教授 (80583608)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | サブスタンス / 遺伝子 / インド / 民俗生殖論 / 配偶子 / 身体 / 人種 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現代インドにおける遺伝子というサブスタンスとそれにまつわる諸実践が、いかに個と集団の差異化や同定に関わるのかを、歴史的かつ社会的側面からアプローチするものである。 今年度は、遺伝や遺伝的関係に対する社会的な認識を把握するため、人びとが抱く「血のつながり/血縁関係」(blood relations)と「遺伝のつながり/遺伝関係」(genetic relations)との類似性と差異を明らかにした。フィールド調査という手法上、過度な一般化はできないが、それでもおおよそ、①血のつながりは父系、母系からなる双系的で垂直・水平を含む幅広い親族関係が想定されるのに対し、遺伝のつながりは祖父母―父母―子のような直系的な親子関係が想定され、両者は重なりつつも異なる範囲を示すこと、②遺伝的つながりという場合には、医療の言説が入り込み、遺伝病などの文脈で理解されやすいのに対し、血のつながりはより社会的な関係性を想起させること、②ジェンダーと階層によって想定される範囲や観念が異なること、などが明らかとなった。また、人種概念の変遷について、カーストと人種、宗教と人種という二つの軸をたて、20世紀初頭のインドにおける人種概念に関する研究について検討を行った。 さらに、インドにおける出生と優生学をめぐって、歴史的にどのように議論されてきたのかを明らかにするため、インドから関連する研究者を二名招聘し、国際公開ワークショップを開催した。さらに、招聘した研究者とともに、日本南アジア学会全国大会のパネルを共催し、研究報告を行うなど、成果公開にも務めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究のさらなる展開とこれまでの成果の中間報告を目的として、インドのサヴィトリバーイー・フレー・プネー大学より2名の研究者を招聘し、国際公開ワークショップ「Eugenics in Indian context」を国立民族学博物館で主催した。また、日本南アジア学会第31回全国大会にて、セッション「Social formations of social groups in Modern Maharashtra」を共催した。インドでの調査とともにこうした成果公開を通じて、今後の研究で着眼すべき点などを明らかにすることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は最終年度にあたるため、これまでの研究を踏まえつつ、補足調査として①現代的な民俗生殖論の展開、②ヒンドゥーとムスリムといった社会集団の差異と同定に関する言説、についてのデータ収集を中心に行う予定である。また、それらを踏まえつつ、現代インドにおける人種概念の再検討を行う。現地調査とともに、成果公開として国際学会での報告および、インドから研究者を招聘して国際ワークショップの開催を予定している。それらの議論を通じて、残された研究課題および新たな発展の可能性を検討する。
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Causes of Carryover |
今年度は分担者となった他の科学研究費助成事業が2課題あり、現地調査にかかる旅費が予定より少なかったため、残額が生じた。来年度の助成金使用に関しては、インド、イギリス、スペインでの現地調査と国際学会への出張が予定されていることと、インドから研究者を招聘し国内でワークショップを開催することを計画しており、計画通り予算を執行予定である。
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