2016 Fiscal Year Research-status Report
受刑者の社会復帰に資する憲法学解釈の刷新ー国際人権法に基づく司法の関与の検討
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16K16981
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
河合 正雄 弘前大学, 人文社会科学部, 講師 (90710202)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 無期刑受刑者 / ヨーロッパ人権条約3条 / 社会復帰処遇 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、受刑者の円滑な社会復帰の前提となる刑事施設内の処遇環境に着目し、拷問や非人道的な取扱いなどを禁じたヨーロッパ人権条約3条を1つの着眼点に据えてヨーロッパ人権裁判所やイギリスの国内裁判所の判例展開を考察することで、日本における、受刑者の権利保障に資する判断枠組みのあり方を考察することにある。平成28年度は、「国際人権法の視点を採り入れた受刑者の実効的な権利保障に向けて」(河合正雄代表、若手研究(B)(平成26~27年度、研究課題番号:26780008))の研究成果をふまえつつ、次の検討を行った。 ヨーロッパ人権裁判所は2008年に、仮釈放の可能性を認めない絶対的無期刑は、ヨーロッパ人権条約3条が禁ずる「非人道的な刑罰」に該当する可能性があることを認めた。同裁判所は2013年に、イギリスの絶対的無期刑が「非人道的な刑罰」に該当するとして、実際にヨーロッパ人権条約3条違反判決を下した。その後の同裁判所の判決でも、事後的に絶対的無期刑を見直す基準が不明瞭である場合や、最初の絶対的無期刑の見直しをする年限が服役開始から25年を大きく上回る場合にヨーロッパ人権条約3条違反を認定するなど一定の判断が下されており、判決法理の展開が見られたことを確認・検討した。 昨今のヨーロッパ諸国で高まっている反EU感情のあおりを受け、ストラスブールと締約国との間でも一定の政治的緊張が生じる場面が出ており、受刑者の権利のような国民感情を刺激しかねない事案では、ヨーロッパ人権裁判所は積極的な条約違反認定に躊躇する場合がある事が推測される。しかしそれでも、絶対的無期刑は、国際人権法上許容されないというコンセンサスが形成されつつあることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ヨーロッパ人権条約3条に着目し、ヨーロッパ人権裁判所が仮釈放を認めない絶対的無期刑に対して実際にヨーロッパ人権条約違反を認定する場面に関する研究を継続・発展させることができた。しかし、本科研の研究期間が3年あるとはいえ、現実に取り組むことのできた研究対象がやや狭きに失した感が否めない。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度までに得られた研究成果をふまえつつ、非人道的な取扱いなどを禁じたヨーロッパ人権条約3条を1つの着眼点に据え、刑事施設内の処遇環境に関するヨーロッパ人権裁判所の判例法理の展開を考察する。 今年度中に、仮釈放可能性を認めない絶対的無期刑とヨーロッパ人権条約3条との関係を論じた研究成果を、著書(共著)として刊行する予定である。これ以外の研究成果についても、学術論文として「青森法政論叢」(青森法学会)や「人文社会科学論叢」(弘前大学人文社会科学部)などの学会誌や紀要に投稿するよう努める。 研究費は、前年度とほぼ同様の割合で、本研究課題に関連する学術書籍の購入と、学会・研究会への参加や資料収集のための旅費等に用いることを予定している。
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