2016 Fiscal Year Research-status Report
近代立憲主義における他者の不在の克服-全体性と無限を通じた公共性の再編
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16K16982
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
江藤 祥平 上智大学, 法学部, 准教授 (90609124)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 立憲主義 / 他者 / 公共性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、近代立憲主義の観念を国民の間に浸透させるべく、他者の観念に着目してその再構成を図るところにある。平成28年度は、主に、近代立憲主義と他者の関係性を、西洋と日本のそれぞれについて、明らかにすることに努めた。 具体的には、今日では日本のみならず西洋においても、立憲主義の観念が行き詰まりをみせているが、その原因は他者の不在にあるとの仮説をまず立て、その上で、従来個人の自立と自律が出発点にあるとみられてきた立憲主義の根幹には、他者の観念があることを示した。そして、他者の観念は立憲主義を生み出した原動力であるがゆえに、他者なくしては立憲主義はやがて化石化してしまうおそれがあることを示した。 次に、日本の戦後の立憲主義の歩みが、「他者」を捨象するところから始まったこと、その背景には戦前に「天皇」という他者のもとで個がすべて統合されてしまった苦い経験があることを明らかにした。しかし、他者から切り離された自己をもってはいかなる価値も語りえないことを、尾高朝雄のノモス主権論に照らしつつ論証を試みた。 本研究がとりわけ注目したのは、アメリカ合衆国の経験である。立憲主義の母国ともいわれるアメリカであるが、アメリカで立憲主義が受容されるに至った大きな要因の一つとして、プロテスタンティズムが挙げられる。元々、ピューリタンたちが海を渡って作った国であるだけに、立憲主義の核心である信教の自由が受け入れやすい土壌が、アメリカには当初から備わっていた。世俗化が進んだアメリカであるが、実は今日でもこの宗教性が国民統合の背景にあることを、いくつかの最近の研究に照らしつつ論証した。 これまでの研究で、問題の構図は概ね明らかになったが、今後はより各論的考察を深めていく必要がある。戦前に回帰することなく、いかにして我が国に他者を招き入れることができるかを探求することが、今後の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、従来の立憲主義研究の中であまり顧みられることのなかった他者との関係に着目するものであり、先行業績に乏しい分野であるから、当初は難航することも予想されていた。しかし、従来の先行業績の問題点を抽出する中で、今後の進め方がくっきりと浮かび上がり、執筆活動が捗る結果となった。具体的には、雑誌に5回の連載をすることができ、今後これをさらにブラッシュアップしたものを単行本化することが予定されている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、研究の大まかな要点をつかんだ上で、その概要を記すことに努めた。しかし、全体像を把握しようと急いだために、各論の部分においては詰め切れなかった部分を多々残している。平成29年度は、これらの各論の部分の研究を深めて、総論の深みへとフィードバックできるよう努めたいと思う。
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Causes of Carryover |
残額が生じたのは、初期費用として計上していた電子機器類の購入を本年度は控えたためである。文献収集や海外出張の費用が不足することをおそれて、物品の購入を控えていたが、結果的に残額が生じたため、本年度に購入予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
初期費用として計上していた電子機器類の購入、および海外出張の費用に充てる予定である。本研究のテーマに対する海外の関心の高さもうかがわれることから、可能であれば複数回海外出張をし、海外の研究会で議論を交わす機会を増やせればと思う。
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Research Products
(4 results)